東北文教大学

フランス語I

阿部 いそみ(教授)
担当者名/
阿部 いそみ(教授)
 おいしいものへの情熱にあふれた国、フランス。この授業では食べ物をテーマにしたテキストを用いて、カフェでの注文の仕方やマルシェ(市場)で野菜を買うときの表現、チーズ専門店やケーキ屋での会話表現を覚えながら、フランス語の基本会話を段階的に楽しく身につけていくことをめざしています。

15回分の内容

> ガイダンス> アルファベと綴り字記号
> 発音規則> マルシェでの会話(1)
> マルシェでの会話(2)> カフェでの会話(1)
> カフェでの会話(2)> チーズ専門店での会話(1)
> チーズ専門店での会話(2)> ケーキ屋での会話(1)
> ケーキ屋での会話(2)> クレープを話題にする(1)
> クレープを話題にする(2)> バカンス文化とパリ祭
> 学習した表現の確認

マルシェでの会話(1)

 今回は、「マルシェでの会話(1)」で学習するpiment(発音:ピマン)という単語の意外な素顔など、授業内に毎回設けている「単語の豆知識コーナー」をまとめて紹介していきます。
 それではpimentについて具体的にふれる前に、関連する別のお話からはじめます。

【似ている=面白い】

 17世紀フランスの偉人ブーレーズ・パスカル(Blaise Pascal)と言えば、「パスカルの法則」や「パスカルの三角形」で有名です。台風の強さは「ヘクトパスカル」という単位で表示されますが、これもパスカルに由来します。計算機の発明者であり、確率論の創始者でもあります。計算機は父の税務作業が簡易になるよう考えたことがきっかけで、確率論は賭け事が好きな友人のために生み出したものだそうです。そしてこのパスカルは哲学者としては、人間を「考える葦」(roseau pensant)
と表現したことでよく知られています。この言葉は冥想録『パンセ』におさめられていますが、『パンセ』には次の一節もあります。

Deux visages semblables,dont aucun ne fait rire en particulier,font rire ensemble par leur ressemblance.
 似た二つの顔は、そのいずれの一つも別に人を笑わせはしないが、並ぶと、似ているというので人を笑わせる。(津田穣訳)

 ある誰かの顔を見て笑いが起こらなくても、その人にそっくりな顔の人が隣にあらわれたら笑いが生まれます。このように、「似ている」とは面白さにつながっていて、とても深い謎を秘めた概念です。さて以下では「単語の豆知識コーナー」のうち、「似ている」ということに焦点を当てて学習していきます。

【ひまわりもヒトデも日本と同じ】

 まず、soleil(ソレイユ)という単語について考えてみましょう。これは「太陽」の意味ですが、ある植物の意味も持っています。何かわかりますか?「ひまわり」です。「ひまわり」は漢字では「向日葵」そして「日回り」とも記すように、日本でも「お日さま」につながるイメージで考えられていることがわかります。

 このような例は他にもたくさんありますが、その一つに「ヒトデ」があげられます。「ヒトデ」は星の形をしている海の生き物で、漢字で書くと「海星」です。「ヒトデ」はフランス語では、étoile de mer と記します。étoile(エトワール)は「星」、de(ドゥ)は前置詞「~の」、mer(メール)は「海」のことです。そのため直訳すると「海の星」となり、日本語と同じです。

【詩人たちがとらえた「似ている」】

 それでは次に、フランスの詩人や小説家の感覚がとらえた「似ている」を見ていきます。この作品は、ジャン・コクトー(Jean Cocteau)の詩です。空欄にはどんな言葉が入ると思いますか?

Mon oreille est un coquillage.
Qui aime le bruit de la mer.

私の(      )は貝の殻
海の響きを懐かしむ
(堀口大學訳)

 答えは「耳」です。「貝」coquillage(コキヤージュ)と「耳」oreille(オレイユ)は形が似ています。貝を耳にあててみたことはありますか?海の波が打ち寄せたり引いたりする音は、心を落ち着かせる癒しのリズムと言われます。太古の昔、原初の生物は海中にくらしていました。人間が潮騒の響きに懐かしさや心地よさを感じるのは、原初の生物としての記憶が、細胞のどこかにあるのかもしれません。

 それでは他の作品も見てみましょう。タイトルの和訳箇所を空欄にしています。

"Le Papillon"
Ce billet doux plié en deux cherche une adresse de flleur.

「       」
あのふたつ折りのラヴ・レター、花の宛先探してる。
(佃裕文訳)

 わかりましたか?答えは「蝶」で、フランス語ではpapillon(パピヨン)です。これは、ジュール・ルナール(Jules Renard)の『博物誌』におさめられている作品です。
 billet(ビエ)という単語は「切符」や「紙幣」の意味でも使いますが、ここでは「短い手紙」の意味です。また「甘い」、「優しい」という意味をもつ単語doux(ドゥー)は、billet douxとして使うときには「愛情のこもった」のニュアンスを含みます。蝶の羽が二つ折りのラヴ・レターに見立てられ、甘美な雰囲気にあふれる作品です。そういえば、蝶の羽はハートの形にも似ています。ジュール・ルナールの『博物誌』は地球上の全人類にとっての必読書です!芥川龍之介などにも大きな影響を与えました。

【大きさが違っても形が同じ】

 さてここで甘い話から、辛い話をします。piment というフランス語があります。発音はピマンですから、野菜のピーマン?と思うかもしれませんが、ピーマンとは違ってかなり辛い野菜、「唐辛子」のことなのです。ピーマンは単語のつくりとしては、piment douxで直訳すると「甘い唐辛子」となります。ピーマンと唐辛子、大きさは違いますがたしかに形が似ています。ピーマンと唐辛子は、やさしくて大柄なお兄さんと、辛口な発言を連発する小柄な弟、といったところです。

 このようにフランス語には、大きさは違うけれども、形が似ているためか同じ単語を用いるものが他にもいろいろあります。ピーマンと唐辛子の大きさの違いはほんのわずかですが、かなりの大きさの違いがあっても同じ単語のものがあります。動物の「サイ」を意味する rhinocéros(リノセロス)という単語があります。カバにも似ているあのサイです。サイは陸で生活する草食動物としては、象の次に大きな動物だそうです。

 ところでサイを意味する単語 rhinocérosは、もっと小さなある動物(というよりも昆虫)の意味も持っています。何だと思いますか?サイは鼻の上あたりに角(つの)がついていますが、同じような特徴を持つ生き物です。答えは「カブトムシ」です(lucaneという単語もあります)。頭部に角がついている、という同じ特徴によって、サイとカブトムシは同じ単語となっています。尚、サイもカブトムシもそれぞれ、自分達が同じ単語を与えられているという驚く事実を知らされないままに生きています...。お互い相手を見たときに、「アッ、アイツニモ ツノガアル!」と兄弟意識・同胞意識を感じるのでしょうか。

 次に、trombone(トロンボヌ)という単語についてです。これは発音からもわかるように、楽器の「トロンボーン」の意味ですが、形が似ているある文房具もこの単語を与えられています。答えは「クリップ」です。トロンボーンは長いU字型の管を組み合わせた形をしていて、演奏するときには管の一部をスライドさせます。トロンボーンをずっと遠くから見ると、クリップに見えるかもしれません。

【ガラスの靴論争】

 「似ている」といえば、シンデレラの靴の素材について、話題にしないわけにはいきません。このことで200年間にもわたって「ガラスの靴論争」と呼ばれる論争が繰り広げられました。この「似ている」は、形の類似ではなくて発音の類似です。シンデレラの靴といえば、ガラスの靴を思い浮かべると思いますが、ガラスの靴はシャルル・ペロー独自のものです。というのも、シンデレラ物語は世界中に広くその類話があって...。発音の類似の話の前に、ここでシンデレラについて、靴の素材をめぐる変遷を簡単におさらいしておきます。

 最古のシンデレラ物語は、9世紀の中国までさかのぼります。中国版のヒロインの名前は「葉限」で靴は「金の履」です。「その履の軽いことは毛のようであり、石を踏んでも音をたてない不思議さ」と描かれています。最古のシンデレラを発見したのは実は日本人で、明治時代の博物学者、南方熊楠です。この人は、70種類もの菌を発見した生物学者としても有名です。それから18世紀半ばのイタリアのバジーレ版では「チョピン」と呼ばれる厚底靴です。ヒールの高さは40センチとのことです。日本でも少し流行った時期がありました(この時期、男性を睥睨する若い女性が街にたくさんあらわれました)。またグリム童話版になると、舞踏会初日には「絹と銀の刺繍の靴」で、靴を落とす日は「金の靴」を履いていました。そして、ペロー版になってガラスの靴となります。ところでペローの本職は童話作家ではなく、ルイ14世に仕えた役人でヴェルサイユ宮殿の設計なども手がけています。1628年生まれということですから、日本では徳川光圀、あの水戸黄門と同じです。

 さて、発音の類似に話をもどします。ペローのシンデレラ物語の正式名称は、Cendrillon ou la petite pantoufle de verre「サンドリヨン、もしくは小さなガラスの靴」です。このタイトルにある単語のうち、pantoufle(パントゥフル)というのは、ヒールのない「部屋履き」のことで柔らかな素材であることが一般的です。またverre(ヴェール)とは「ガラス」を意味します。pantoufle de verreとはどういうことだろう、等々の疑問から論争が起きました。その論争の中で、verreと同じ発音ヴェールで共通する単語、つまり同音異義語のvair(美しくしなやかな銀リスの毛皮)が話題になって、「ガラスの靴とは、実は、銀リスの毛皮のスリッパの誤用では?」という説も繰り返されました。そしてこの論争は200年にもわたるものとなり、「ガラスの靴論争」と呼ばれることになりました。この論争には文豪バルザックも関わっています。

【もしゃもしゃワールドあれこれ】

 最後に、銀リスの毛皮に続いて、毛皮のようにもしゃもしゃイメージのあるものについてのお話です。

 ourson(ウルソン)という単語があります。これは「子グマ」を意味します。そしてoursin(ウルサン)という発音も綴りもそっくりな単語がありますが、意味は「ウニ」です(尚、ウニは漢字で「海栗」と書くことがあります。フランス語でも「栗」を意味する単語châtaigneを使って、châtaigne de mer、直訳すると「海の栗」と記すことがあります)。ウニ寿司は、ほんの少し音を間違うと、子グマ寿司の意味になります。

 さてoursonとoursin、子グマとウニ、これらの単語は全く関係がないように見えて、実は語源として同じなのです。いずれの単語も、「クマ」を意味する単語ours(ウルス)に由来します。クマが毛むくじゃらなように、毛のもしゃもしゃとした子グマと、イガ栗のようなもしゃもしゃのとげでおおわれたウニ。一言でいうと、もしゃもしゃ感が同じです。写真は、テキストの動詞活用表のページを熟読する毛むくじゃらな子グマの後ろ姿です。少しウニに似ているようにも思えます...か?

 もしゃもしゃ話をもう一つ。フランス生まれのキャラクター「バーバパパ」を知っていますか?これはフランス語で表記するとBarbapapaですので、発音はバルバパパとなります。バルバパパという同じ音を持つもう一つの表現があります。それはbarbe à papaです。直訳すると「パパのヒゲ」ですが、これはお祭りの縁日などで売られている「綿菓子」の意味です。綿菓子は言われてみると、もしゃもしゃしたヒゲに似ています。

 以上で今回の授業紹介を閉じたいと思います。実は、「似ている」に関連するとっておきの話がありますが、その詳しい内容については「フランス語I」の授業の中でお話しすることにします。それでは、入学後に会えるのを楽しみにしています!!


(H24.9更新)

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