45 見るなの座敷むかしむかし、あるどころにじんつぁいで、ほして自分の家の庭の梅の木、古くなったから、実もあんまりなんねしはぁ、花もたんと咲かねぐなったから、切ってしまうかなぁと鋸持って、鋸入れっど思ったれば、何だかパッと明るくなったような気がする。はっとうしろ振り返ったら、きれいな娘が、「何とかほの木切んなやめでけらっしゃい」 ていうわけだけど。 「実は、あの、ずうっと前から、ほの木ど仲よしにさせてもらってだ者だげんども」 ていうわけで、見れば風体いやしからぬ者だし、こりゃ何かあるなと思って、 「んではやめんべ」 ていうわけで、鋸置いた。その娘、 「んだらあたしと一緒にござってけらっしゃい」 ていうわけで、おっかけで行った。ほうしてずうっと行くとこまで行ったれば川流っでいだっけ。ほの川の香のええごど、全部酒だけど。ほして、 「ここが、おらえの家だから、んだらまず」 て、挨拶して家さ行ってみた。ほうしたれば一月から十二月までの部屋あるんだけど。ほうして、 「ここずうっと、あなた自由に御覧になってええから、ただし、二月の部屋だけ見ねでもらいたい」 て、こういうわけだけど。んで見んなて言っだもんだから、一月の部屋見た。ほうしたれば、松竹梅、さんぼうさ餅とミカンなど上がって、ちゃんとお正月の準備出っだけど。 二月は見んなて言っだから見ねで、三月。三月の部屋さ行ってみたれば、雛壇があって、三人官女、五人ばやしがあって、金屏風なてあって、なかなか立派なきれいな部屋だ。こんど四月。 四月の部屋さ行ったらばお釈迦さまのお祭り、甘茶なの竹の柄杓でかけたり、花見灯篭あったり、木蓮の花など咲いっだんだけど。ほれから今度、五月の部屋さ行った。 五月の部屋さ行った。五月の部屋では、幟り、矢車、武者人形、五月節句だけど。ほれもまたきれいだ。うっとり見っだ。ほしてこんど六月の部屋さ行った。ほうしたれば六月の部屋さ行って見たれば富士山の山開き、お供えものいっぱい持って、奉納する人、行列で登って行んけど。ほこの登っていくどこ描いた襖あったり、屏風あったりしてまことにきれいだ。 七月。こんど七月の部屋さ行ったらば、七夕、竹さ金銀の短冊さがったり、願いごとを書いだり、何かえしたな七夕さま、こんど銀河などずうっと見えてきて、ヒコ星とオリ姫の会う様など、まずきれいに描っだ部屋だったど。 それから八月の部屋。これはお月見。ススキ、お団子、芋など上げて十五夜のお月見しったどこ。 こんど九月。九月に入ったらば百姓の稲刈り、案山子なの立てたり何かいして、雀除けなのしたどこ、これもきれいに整った部屋だけど。 ほれから十月さ入ったら、菊人形。牛若丸、弁慶なの、ほれから浦島太郎なのすばらしくええあんばいに描かっでいた。ほうしてはいつが生きっだ人形のように見えっけ。 十一月、七・五・三のお宮詣り。 十二月さ行ったればこんど結婚式のどこ。これもまたきれいな絵馬でも眺めるようだった。ほして、 「ああ、ええがったなぁ」 と思っていた。んだげんど、見んなて言っだ部屋見っだくなって見っだくなって、何とも仕様なくて、ほして、二月の部屋開けてみたれば、三つの卵あるんだけど。ほして三人の子どもがいて、ほこささっきの娘がしょんぼりと立っていだんだけど。ほして開けんなていうどこ開けたもんだから、あわてて子どもがこっちの方見っだ。ほして見たれば、何だかウグイスの卵みたいなものあっから、 「あら、きれいだごど、梅干みたい色ついっだ卵だ、こりゃ」 なて、持くべと思ったら手ぱずして落したれば、他の二つもぼっこっでしまった。したればその三人の子ども死んでしまったんだどはぁ、したけぁ、 「あら、見んなてあれほどお願いするに、どうして、あなた見てけだべ、ほんではわかんねっだなはぁ」 て言うたと思ったら、すうっとその娘さんが消えてしまって、 「ありゃ、娘消だ。不思議なこともあるもんだ」 と思ったれば、いつの間にか自分の庭さ鋸持ってしょんぼり立っていだっけど。んだから、見るななて言うどこ無理に決して見らんねもんだど。どんぴんからりん、すっからりん。 |
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