12 小僧持念―馬の目に膏薬―

 むかしむかし、楢下さ福聚寺ていうお寺あって、そこさ持念ていう小僧さんがいた。この小僧さんはきわめて悧発で賢こい小僧さんであった。
 あるとき、友だちの家の馬がうんと春先なもんだから(まや)から離っで出はって、そこらうちかけ廻しているうちに、何間違ったか、木の枝さ目引っかけて、(めっこ)になってしまった。片目つぶしてしまった。そしてはぁそこで、
「いや、困ったこと始まった」
 て、そこは、ほれ、友だちのおっつぁんが、久しくはぁ、中風に倒っで休んでいた。
「可哀そうなもんだ、おっつぁんが中風で倒っで馬まで目つぶしてしまってでは、売るに二束三文だ」
 なぜなうまい工夫ないべかなぁて、ほの持念は考えた。
「よし、うまいことある」
 て言うわけで自分の家の鶏ば、(まなぐ)さ膏薬()って、ほして上山の市場さ持って行った。ほしたところが、()ぁれも目のつぶっだどこさケチつけて買わねがった。
 ある一人の人ぁ、半金(はんかね)で買ってみた。ほうしてそおっと膏薬はがしてみたれば目は健全だった。
「何だ、何の膏薬貼ったんだ。こいつぁもうがった。こりゃ」
 次の日、また兎さ膏薬貼って、はいつ背負って行った。ほうして出したれば、
「しめしめ、あいつも大丈夫だぞ」
 て言うわけで、その肥えっだ兎、安くふんずけて買った。ほうしてそおっと膏薬はがしてみたれば、なぁに、目は健全だった。
「これも、もうがった」
 このもうがった話は上山じゅうさ、みな聞こえた。目さ膏薬貼ったのは、肉付きもええし、ツヤツヤして、まずええものばり、これまで二度来た。ていう話はもう城下じゅうさ拡がった。
 ほの次の日、馬さ膏薬貼って引張って行った。そうして欲のふかい連中だ、みなほの馬、すばらしく肉付きええくて(こえ)てる。見たとこもええ、膏薬はがしてみっど、また目あるんだど、何かでいたずらして貼ってよこすんだべていうことになって競争買いになって、すばらしく高く売っだ。そしてそおっと膏薬はがしてみたれば、こいつは本当の盲だったって。んだげんども市場で売買したもんだから、はいつは元さ返すのも何だって言わんねくて、馬、怪我させた家では非常に持念さ感謝して馬高く売ってもらってええがったて安泰に暮したけど。どんぴんからりん、すっからりん。
>>へらへら話 目次へ