19 ニシンの寿司-和尚と小僧

 和尚さまと小僧いだっけど。その小僧は賢こい小僧だけど。和尚さまは時々、 ニシンの寿司出して食うども、小僧に呉んねじも。
「いっぺん食ってみたいなぁ」
 て思うども、なかなか和尚さま呉んねんだし、和尚さま、隣村の法事に頼まっ で行ったから、そんで、
「今日こそ、おれ一人だから食ってみんべ」
 と思って、流しの方さ行って戸棚あけてみたば、いっぱいニシンの寿司あっか ら、食ったじも。食いはねだば、とてもうまくて止めらんね。みんな食ってしまっ たど。ほれからこんど、何として言いわけしたらええべと思って、考えて、寿司 て、御飯炊いて糀まぜて塩合せて甘味つけて、それで魚はさんでつけたもんだべ な。その飯 (まま) のどこはぁ、本尊さまさつけでで、かんづけて呉れんべと思って、べっ たりと口さ塗っていたずも。
 ほして、こんど、和尚さま来て、
「小僧、小僧、今来た」
 また、和尚はぁ、寿司で一杯飲むべと思って見たらば、寿司なくなっていたず も。「小僧知(しゃ)ねが」ていうたら、
「おれは知(しゃ)ね、そんな戸棚など開けねしな」
 なんていうごんだべと思っていたらば、こんど寿司の飯、ポロンポロンとはぁ、 本堂の方まで落ちっだじも。小僧落してなぁ、そして行ってみたれば、本尊さま の口さ、よっぽど付いっだ。
「ほんでは、この本尊さま食ったなだな。小僧、ほに、おれ居ねうちに、寿司な ど食って小僧にも食せねんだんだ。叩いてくれるから表さ出はれ」
 なて、ガラガラと本尊さま出してはぁ、家の前の池さ入れだじも。そうすっど クッタクッタ、クッタクッタて、その口から水入っこんだ。
「ほら食ったべぁ、こんど上げて叩いてくれる」
 て、上さあげて叩くと、カチッと叩くど、金 (かね) なもんだから、カーン、カーンて いう。
「まだ白状しねが、まだ水さ入れでくれる」
 水さぶっ込むと、またクッタクッタ、クッタクッタて。何度入れてもクッタクッ タて言うべし、上げればカーンだし、そこではぁ、和尚さま、小僧負けではぁ、 小僧の智恵で、叱られっこと逃れたけど。むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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