8 もぐらもち

 むかし、奥さんが病気して、あらゆる医者さかけても、医者も典者もかなわねくて、ほして困っていだ。ほして占い師さ行ったれば、
「旦那さん、お前の一番好きなもの、断ちものすっど治っかしんね」
 て、こう言わっだ。
「うん、おれの一番好きなものは餅だ。かかの為だら仕方ない。断ちものすんなねべ」
 ていうわけで、お神明さまさ、餅の断ちものを誓ったって。おれは餅、一生食わねて……。
「んだから、かかの病気だけは治してもらいたい」
 ていうた。ほうしたれば、薄紙はぐように、ええぐなった。ほうしてたちまちええぐなって、ほれ、喜んでいたげんども、大好きな餅食んねには、ほとほと困ってしまったていうんだな。ほの旦那さん、ほして考えだんだど。
「いや、ほだほだ、神様さ、おれぁ餅一升食わねて誓った。んで九合九勺は食っても、くなねべ(かまわんだろう)」
 どて、ほの次の日から九合九勺だけは食うことにしたって。

 こんどは、別の人が、また餅断ちが一番ええて話聞いたもんだから、餅断ちして、やっぱり、かかの病気治したわけだど。
 やっぱり、治ってみたれば、ほの、治らねうちは、ほれ、藁をもつかむ思いで病気治しに専念してるんだげんども、治ってみたれば何とも手持不沙汰ていうか、餅食だくて餅食だくて仕様なくて、神さまさ行って、
「なぜしたらええかなぁ」
 て、考えていだって。
「どうせ、こうせ、思い切って餅食うべはぁ」
 ていうわけで、食ってたな、他の人見っだわけだ。
「何だ、君、餅断ちしたなて、餅食った、どら」
「いや、おれはこの餅断ったんでなくて、モグラモチ断ったんだ」
 て。
 餅断ち二題。
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