14 七ヶ宿村湯の原

 むがしむがし、七ヶ宿の湯の原ていうところは、出湯がふだで、村中の人が川のように流れる出湯さ毎日毎日入って、一日の作業のつかれをいやしているんだけど。
 ところが、夏なの、男の人なのは褌一天で手拭いといった気軽さで湯に入りに行ったところが、いつもその、みんな入浴しているのば守るように大きな月の輪熊がゴロンとねそべって見でいんなだけど。
 誰言うとなく、「湯神さまだ、湯神さまだ」てみんな信じでいだんだけど。
 さて、村人の一人で「引弓」の名人で、五介ていう若者がいだんだけど。ほして常に大物を取った自慢なのばりしているので、あの山の主、湯神さまば弓で射るでないかていう噂が立ってしまったんだど。
 ところが本人はひそかにその機会をねらっていだ。村人からやめて呉ろ、やめて呉ろて言われても、何ものかに取憑かれだように、目の色まで変っていだんだけど。
 で、ある日、その時がやってきた。その月の輪熊が、みんな入浴する時がくるので、山からいそいで湯場さくる途中を待ち受けて、茂ケ沢山のかげに足場を取って待っていだ。弓矢の矢じりには、トリカブト、サンショウのほか七つの毒を煎じつめた毒矢をつがえたど。
 そんなことは露知らず、主さん、ゆうゆうとやってきた。そこを満月のように弓をふりしぼり、ヒョウと矢は弓弦を離れた。五介は足をふみはずして、千仙の谷へ落ちて死んでしまった。湯神さまの月の輪熊は毒矢を足に受けて、びっこを引きながら、湯の出る穴の中さ入って行ってしまった。
 それから今の今まで、熱い湯が冷たい普通の水になってしまった。村中干満村の熊野さまにお詣りしても、湯には変らねがったんだど。ほして蔵王山の向い側に主の湯神さまが穴を通って行ってしまった。んだから今でも、
「峨々、青根、遠刈田、南郷」
 の方さ行ってしまって、七ヶ宿さ一滴の湯も出ねなだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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