27 木のはなし

 炭焼きがその木を伐ってカマさ()っだ。石ガマというものは、真赤に焼けっだうち、消さないで外にひっぱり出して、それから石灰(いしばい)という灰かけて消すわけだ。その石灰かけて消してみたら、そっきりの木の侭だった。
 んで、またカマさ入れだ。七へん入れでも炭にならなかった。んだからカマドさ七回入れたから〈ナナカマド〉て言うんだど。一般にはナナカマドと言っていっけんども、〈サイカイ〉というんだな。木で再会したという意味で、炭にならないで、〈サイカイ〉したというんだど。
 「ナナカマド」の同種で、炭にしたとき非常に固いというんで、木の名も〈カタスミ〉というてるものがあって、これはバラ科である。〈ミネバリ〉という学名だそうだげんども、非常に固い木で、この辺では〈オノレ〉と言うてる。オノレとは、「斧折れ」の意味だ。この〈オノレ〉とほとんど見分けのつかないのが〈梓〉だ。「梓の臼にオノレの杵」なんていうたもんだ。

 杉の木は〈スグ木〉ということで、真直の木というんだな。ヒノキは「火を起こす木」。それに準じたものは〈ヒノキ〉になんねくて、ヒノキないときに代用に使ったのが〈アスナロ〉なんだな。「明日ヒノキになろう」ということなんだど。〈ヒバ〉は「火場に欲しい木」ということなんだど。
 木と柴の分け目は、木は十八年経ったのはそれで、それより若いものは柴だという。十八年で「(きみ)」のためになるのは〈松〉だ。杉は四十八年というて、十八年さ三十年()さんなねそうだ。四十八年で役に立つようになるんだど。
 銀杏の木は〈ギンナン〉と言うた。ところがたまたま実を食ってみたところが、非常に腹の具合わるい人が胃腸が治ってしまったというので〈イチョー〉というようになったんだど。
 〈槐(えんじゅ)〉というのは、支那に鬼門という、東の方の「ドサクサン」という山があって、その山の桃の木の下さ鬼が住んでいて、山の東北に鬼が出入りする門があった。それで東北に当る方角ば忌みきらって、ほこさ門や玄関、井戸、便所なのきらうのだど。んで結局、江戸城の鬼門には上野寛永寺があり、京都御所の東北には比叡山延暦寺があるというように、鬼門ば防いだんだど。その鬼ば防ぐ木だということで東北に植えたのが「槐」だそうで、どこの家でも魔除けとして植えている。
 ところが、その木の木理が非常にきれいで、いろいろ売りものになる。あるいは倉普請とか座敷普請に使うときは非常にきれいで、魔除けになる。よく、〈トコブチオトシガキ。槐の床椽、マツコウのオトシガキ〉といっている。ところがたまたま木ヘンに鬼と書いたら、なかなか「エンジュ」だと言うても売れなかった。ある人が一策を案じて、「延寿」という字に直したら、売れ行きが抜群だったので、今では銘木業者は「延寿」という名を使っている。
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