瓜姫子

 あるところに、おじいちゃんとおばぁちゃんいだけどな。ほうして、ほのおじいちゃんとおばぁちゃん、子どもなしで、山さ、おじいちゃんは柴刈りに、おばぁちゃんは川に洗濯に行ったど。ほして、あんまり暑い夏なもんだから、畠さ瓜植えっだんだけど。ほれから洗濯して来て、畠さ廻って見だれば、大きな瓜実(な)ってだから、
「ああ、お昼に、こりゃ、冷やしておいで、おじいちゃんと二人で食べようかな」
 と思って、ほして、瓜を畠からもいで来たど。ほしたれば、じいちゃんが山から柴背負って帰って来たど。
「じいちゃん、じいちゃん。暑がったべ。んだから大きな瓜、まず、熟していたから、ほの瓜でも割って、御飯前に食ったらええがんべ」
 ど。ほしてまず、水から上げて、瓜割んべと思って、庖丁当てたら、パカッと割っで、庖丁当てたばりで、ほしてオギャーオギャーて、女の子が生れたど。ほれから、ほれぁ、
「ほんじゃ、おれとお前さ授った子どもだ。んだから、これは大事に育てよう」
 て、いうわけで、一生懸命育てて、今、年頃になって、年の頃だど十三、四になって機織りする。して、機織り教えだんだって。ばぁちゃんがよ。ほして、
「瓜姫子、瓜姫子」
 て、めごくてめごくて、ほれ、自分の子どもだから。ほして教えっだらば、その部落のうちに、天邪鬼という男の子いるらしいんだな。ほしてその男の子が、瓜姫子ば好きになったんじゃないかな。ほして、
「瓜姫子、今日な、ホドイモ掘りに行って来て、瓜姫子好きだから、イモ掘って来て食せっから、お前一人ばり留守番して、機織りしてろな」てな。
    クダもない カーラカラ
    キーコーパッタラトン
    クダもない カーラカラ
    キーコーパッタラトン
 と織ってろて、こういうわけだ。おばぁちゃんはな。「天邪鬼なの来たたて、決して戸開けてなんねぞ」て、教えて行ったんだって。ほしたら、じいちゃんは山さ柴刈りに行ったし、ほうしてるうちに、
「瓜姫子、遊ばねが」
 て、来たんだど。ほれから、
「ばぁちゃん、機織りしてろていうから、遊ばんねなだ」
 て言うたら、
「ほだごど言(や)ねで、遊べ」
 て言うげんども、「遊ばんねなだ」て。ほしてまず、キーコーパタラトンて、織ってだわけだ。ほしたら、
「少し戸あけて見せろ」
 て、言ったて。天邪鬼。
「いや、戸開けんなていうから戸開けらんねなだ」
 ていうたげんども、
「ほだごど言(や)ねで、ほんのちょっぴりええから、開けて呉ろ」
 て。ほんのちょっぴり開けてやったんだけ、瓜姫子が。ほしたらばガラガラッと開けてきて、ほして天邪鬼、瓜姫子ば裸にして、ほしてこんど、瓜姫子ば殺して、自分がその着物きて、ほして、
    ズッタラ バッタラ ギイ
    ズッタラ バッタラ ギイ
 て、機織ってだって。ほしたらばぁちゃん、山から帰って来てな。
「ほどいも、いっぱい掘ってきたから、瓜姫子好きだから、ほどいもいっぱい煮てやっから、ほれまで織ってろな。何だか今日の機の織り具合、あんまり音ええぐないな。ズッタラバッタラ、ギイっていう。いつもだと、キーコーパッタラ、トン、クダもないカラカラって織ってるんだげんども、今日の織り方、あんまりええぐない織り方だ。なして機の木が少し狂ってたんだか、何だか知しゃねげんども、あんまり、ええぐない」
「んだか」
 て、ズッタラバッタラ、ギイって天邪鬼織ってだど。ほしたれば、
「ほどいも煮(ね)たがら、瓜姫子、瓜姫子、ほどいも煮たから、ほんじゃ早く来て、食べろ」
 て、ばぁちゃんが言ったんだど。ほしたれば、ばぁちゃんが言うと来て、ほどいもの皮も剥かないで、そうしてがむがむ、がむがむ食べたど。ほしてばぁちゃんが不思議にしたんだど。
 ほしていたところが、こんど何という殿さまだか知しゃねげんども、殿さまの家から、
「瓜姫子の評判もええし、器量もええしすっから、お姫さまにもらいたい」
 という使いが来たんだど。んだげんども、
「一人娘だから呉らんね」
 ほしたれば、
「じいちゃんもみんな連れで行ってええから、もらいに来たから、是非(ずし)とも呉でけろ」
 てよ。
「んだげんども、手塩にかけて、これだけ永く育てた娘、呉らんね」
「ほだごど言(や)ねで呉でけろ」
 ていうので、今度、じいちゃんも帰って来たもんだから、
「ほんじゃ、わたしだも一緒だったらば、ほんでは仕方がない。ほんではわたしだも一緒に行って、まず楽させてもらうべ」
 ほしてこんど、車さのって、御殿さ出かけたわけだ。ほしたれば山の頂上さ行ったらよ、きれいな鳥飛んできて、啼いで、
    瓜姫子ののり車に
    天邪鬼 ぶつのって
    ピーヒョロ ヒョロ
 て啼いだんだって。そこで一休みしたんだから、その鳥は何回も何回も木の枝さ止って、
    瓜姫子ののり車に
    天邪鬼 ぶつのって
    ピーヒョロ ヒョロ
 て啼くんだってよ。ほれから家来たちもおじいちゃんもおばぁちゃんも不思議して、もしかしたら、天邪鬼、瓜姫子ば殺して、化げでいたんじゃないかなぁと思って、不思議してな、「着物脱いでみろ」て、脱がせてみたんだど。ほしたらば腕あたりさ、毛もさもさ生えで、瓜姫子、んなくて、天邪鬼化げっだんだけど。ほれから、「この畜生!」ていうんで、カヤの中ずるずる、ずるずると引張ったんだとよ。んだもんだから、
「堪忍してけろ、堪忍してけろ」
 て言(や)っじゃげんども、瓜姫子ば殺したんだも、堪忍されるもんでない。ほして殺してみたれば、カヤの中の赤いのが、あれが天邪鬼の血だて。ほして、じいちゃんとばぁちゃんだけ御殿さ殿さまんどこさ引きとらっで、楽々と暮したんだけど。
>>お婆の手ん箱(一) 目次へ