狐に化かさっだ話

 これは実際にあったことだて言うんだげんども、ほの大宝院という家は、今でも西川町のジョージマというところにあります。そこの法印さまの話になって残ってます。

 そこでな、法印さまが、あるところに頼まっじぇ、行くどき、途中行ったれば狐が昼眠しったんだけて。ほれからほれ、法印さまだから、ホラの貝、腰からとって、山伏が吹くように、狐の耳さ当てて
  ブホンブホン、ブホン、ブホン
 て吹いだんだてよ。ほうしたれば狐、目キョロキョロさせて、一目散に逃げて行ったわけだ。ほして途中まで行ったればよ、曇ってきて、まっ暗になって来て、雨降って来たんだど。ほれからこんど、
「雨宿りしねでは行かんねべな。どこか雨宿りすっどこないべかな」
 どて、雨宿りすっど思って、ちょっとほこに神さまのお宮あるんだど。
「ここで、お宮さまあるもの、ここでちょっと雨宿りすっかな」
 て思って、大宝院がほこさ雨宿りしたんだど。ほうしたれば、しばらく経(た)ったれば、向うの方でな、火どんどん、どんどんと焚いてよ、ほして棺かついで来るんだど。ほして段々(だんだえ)近づいて来たれば、ほのお宮のどこさ来たんだって。
「さぁ、ここだ、ここだ、ここだ」
 て、ほの棺おろして、火どんどんとつけて、ほして皆んな帰って行ったんだって。ほうしたれば、こんど棺の中から、ほの化けものは出てきて、ほれからこんど恐かなくて恐かなくて、大宝院が、ほこに大きな杉の木あるそうだ。ほしてほの杉の木さのぼって行ったんだど。ほうしたれば、
「大宝院がどこにいた。大宝院がどこにいた。昼の山伏どこにいた」
 て、段々追いつめらっで、しんぽえまで行ったんだど。ほれから今すでに食われそうになって、こんど困り果ててなぁ、そしてこんど、腰からホラの貝とって、ブホンブホン、ブホンブホンて鳴らしたて、ほしたればポカッと明るくなったんだって。ほして見たれば、木の上さのぼって、大宝院がいだんだけど。んだから、狐からしっぺ返しされっから、いたずらさんねもんだど。

 子どもらには、「大宝院がどこにいた、のたりのたり」て、手真似しいしい、教えたわけだ。んだど、「ばぁちゃん、もう一つ、もう一つ」て言うもんだった。いつまでも「教えろ、教えろ」て言うからな、〈のろのろ話〉だな。口すっぱくなるほど教えても、ほれでも、「ほんじゃ、長い長い、長い長い話教えっかな」てな。
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