9 姥皮

 むかしあったけど。
 御伊勢さま詣りに行って来たど。そうすっど、蛇ぁ蛙(びっき)飲むどこだけど。そしたら蛇さ、
「おれぁ娘三人持ったから、どれでも呉れっから、蛙可哀いいから、離して呉ろ」
 て言うたど。そうしたら蛙が離さっだもんだから、喜んで喜んで、こんどはぁ、 ピンピンて行ったど。
 そうすっど、その蛇だごで…。三人の娘いた、どれでも呉れっからて言うた。そしてこんどはええ男になって蛇は来たなだど。親父は、
「おれはこういうことになっていたから、にしゃだ、蛇のどこさ嫁(い)って呉ねが」
 て願ったどこだ、子どもらさ。そしたら姉さんから始まり、
「そだな、蛇のおかたになっていられめぇちゃえ」
 て、言って親父をはじいたど。二番目さ言うても、またはじいだって。三番目さなったら、
「ほんじゃら、おれ嫁(い)んから心配しねで、おどっつぁ、御飯(おまま)あがれ」
 て、こう言うたど。そうしたところぁ、「ええ男だら、おれも行きたがった。おらも行きたがった」
 て、姉どら二人言うたど。
「嫁に行いんから、針千本用意して呉ろ」
 て言わっで、嫁に行ったど。そして山さ入るどこに、川あって、渡っど思ったら橋ないもんだから、蛇が、
「おれ、橋になるから…」
 て言うたので、そこさ針千本撒いたど。そしたらば蛇の体さ皆刺さったど。そしてそこで蛇死んでしまったど。そうすっど娘は出はって行って見たらば、暗くなるもんだから、山の中さ入って行って、木の上さ登ったど。寝るに寝らんねし、山の中だし、下に居っど恐っかねがら、木の股さ寝っだど。そして夜中過ぎっど明るいものポカーッと出てきたど。そしたところが、
「お前のお父っつぁんに助けらっだ。おれ、蛙だ」
 て、そしてその蛙が出たんだってよ。
「明るくなってから行くじど、泥棒の恐っかない者ばり居っから、この姥皮というもの呉っから、この姥皮というものかぶって、お年寄になって、ここの山降(お)ちて通って行げ」
 て、こういう風に教えらっじゃそうだ。そして蛙に姥皮というもの貰って、そいつかぶって行ったば、案の如く泥棒みたいな町はずれさ行ったらいたけど。
「なんだ。どっから来あがった。こがえ婆ぁ」
 て、はねらっでしまったど。ええ女になって行くじど、そこさ行っておさえられるから、姥皮かぶって行ったわけだ。そこからずうっと行ってるうちに、ある旦那衆さ、御飯炊きに入ったんだど。そして御飯炊きに入ったらば、昼間姥皮かぶっていっから、年寄で釜の火焚きなどばりしったんだど。夜さなっじど、ちゃんと姥皮はずして、きれいになって寝っかったど。そこば旦那衆の息子見つけたごんだど。そしてそいつを嫁にもらわんなねて言うたば、
「あがな年寄なだたて、嫁にもらう…」
 て、親たちとても反対したんだって。んだげんども、夜さなっど、きれいにええ女になっているもんだから、ほだから、息子惚れこんでしまったてよはぁ。そして息子は惚れこんで大病になったてよ。大病になっどお医者さまに、
「ただの病気でない、恋のわずらいだから、この薬呑ませた者を嫁にすらっさい」
 て、こう言わっだってよ。まず纂(さん)置きにそう聞いたから、下女を蔵の中さ一人一人に、てんでに薬あずけてやったということだ。そうすっど誰のでも、「飲まね、飲まね」て飲まねなだど。そして一番しまいに、
「ほら、ばばだ。こんどばば持って行け。誰も飲む人いね。こんどはばばだごで」
 て言うて、ばばどさ、あずけてやったらば、ばばの薬、つるっと飲んだずも。そうしたら、みんな手ンばたきぶって笑ったずも。んだごで。そんなばばの薬飲んだて、手ンばたきして笑ったど。
 御祝儀のとき、こんどちゃんと用意して出はって来たれば、すばらしいええ女であったど。そしてそこの旦那衆のお嫁さまになって、そこで暮したど。とーびんと。
(中條ちゑの)
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