32 佐兵ばなし

 佐兵という人は屋代郷の人で、頓智な人であったそうだ。あの人ばりだったど…。
 こっちは私領だし、あっちは御領だもの、酒なの持って行ったり、持って来たりさんねがったど。佐兵が、酒、こっちから持って背負って行ったんだど。私領の方からよ。
「何だ、佐兵。お前背負ってたの何だ」
「何でもない。小便だ」
「小便か」
 ていたげんど、
「この野郎、ほに、小便背負ってる野郎、あんまえちゃい、酒だべ、にしゃ」
「酒でない、小便だ」
 て、尻引込みしったど。
「この野郎、逃げる気だ」
 ておさえらっで、
「ほんじゃ飲んでみろ」
 て飲んだら酒でなくて小便だったど。
「この野郎、ほに、小便食(く)らわせて…」
「なんだ、人ぁ酒でない、小便だというに、お前だええとして飲んだもんだもの、おれのませたものでないもの」
 それからというものは公然と酒背負って、商いしたという話もある。
(中條貞次)
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