9 吉野の桜

 むかしあったけど。江戸に長谷王という人が吉野山の花見に行ってみんべと思って、みんなどこさ、
「おれは旅さ出きっから、花見てくっからな」
 て言うて出はったど。そうすっじど、
「いつ、お帰りになっか」
 て思って、みんな、吉野の花ざぁきれいなええ花だとから、話聞くべと思って待ちていたど。そうしたらその人が吉野の山の途中で、立ち寄んないで、大和国の竹内村に親孝行な娘がいたということで、そこさ行って尋ねたところが、いや貧乏で貧乏で、まずその娘といえば花のように綴(つ)いだ、肩は何色、そっちは何色という、そういう着物をきて、ほがらかな顔して、孝行している娘だ。あっと驚いて、こんなに貧乏していて、年寄りな親二人さ、毎日働いて養なって、毎日いろいろな話を持ってきて、親に聞かせて楽しませている娘だったど。
「はぁ、感心だ、感心だ。これは本当の美しい娘というもんだべな」
 て思って、財布はたいて一両の金をみな、「これは親に何か好きなものを買って進ぜろ」て置いて来たど。そして家さ帰ったか、みんなその話ききたいと思って、
「桜、なじょな様子だった」
 て、いっぱい寄って来たど。
「いやいや、それより大和の竹内村のええ美女見てきた」
「なえだまず、先生、そんなどこで…」
 なて言うってだど。
「いや、その娘はとてもこういう風な着物きてっけんども、心というものは、それこそ桜ちゅうもんだ。本当に。あれなんだれば、今の人は上辺ばりで、ええ着物きて、ええお化粧なんでもしているげんども、本当に美しい大和の心ざぁ、ああいう桜ちゅうもんだ」
 て、みんなどこ感心させたけど。どーびんと。
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