22 三枚のお札

 むかしあったけど。
 ある山中のお寺に、和尚と小僧一人いたけど。そしてこんど、退屈して小僧は、
「和尚さま、和尚さま、今日はあんまりええ..空だから、退屈だから栗拾いにいっ て、なじょだべ」
 て聞いたど。そしたば、
「行くはあんまりええ..ども、一人で行くのは心配だから、三枚のお札呉(く) っでやっから、もしか何か何ごとかあって、恐っかないことあっどき、この札用立てろ」
 てな。
「決して使うときは前の方さ投げねでな、後ろさ投げろよ」
 て教えてやったど。そうすっど、そこのお寺の裏の高い峰のぼって、栗拾いしっ たば、山婆(ばば)出はって来たど。
「何だか、これは恐っかないことある」
「小僧、小僧、なにしった」
 て言うから、
「おれ、栗拾いに来ったんだ」
「おらえで休め」
 て言ったど。こんど、
「暗くなるし、おらえさ泊れ」
 て泊まったところが、そうしたらば、何だか雨降ってきたようだどな。ばさまに抱っで、その雨の音聞くど、
   タンタンタヌキのナカダヌキ
   抱いたる稚児の顔面(つら)を見ろ
 て言うたど。そして異な節の雨降るもんだと思って、また聞いっだらば、
   タンタンタヌキのナカダヌキ
   抱いたる稚児の顔面(つら)を見ろ
 て言うずも。そしてこう見たらば、なんだかほに..、恐ろしげな顔面の婆さまに 抱かっでいだのだずもな。いやいやして、こうしてはとてもいらんねから、逃げ なんね、どういう方法したらええ..んだかと思って考えて、まず、
「婆さん、婆さん、便所さ行きたくなったから、おれ行ってくる」
「行くなんて、嘘語って逃げんのでないか」
「決して逃げんなでない」
「ほだら、決して逃げんのではない」
「おれ、つないでやっから、帯出せ」
 て、細引でつながっで、そして便所さ行って、
「小僧、小僧、まだだか」
「まだか」
「小僧、小僧、ええべはぁ、上がって来い」
 なんて言うど、
「まだだ」
 そしてこんど木さ細引縄ゆっつけて逃げ出して、
「小僧、小僧、まだだか」
 て言うても、小僧音しねもんだから、この婆(ば)さ追っかけはねた。いや小僧は逃 げた逃げた。なんぼ逃げても逃げても追っかけて来るし、振返すと、まだ追っか けて来っから、「山でろ」て後ろの方さ投げたば、大きな札のおかげで大山でて、 その山登ってくるうちに、小僧はまず、ズンズン逃げて来たども、また追いつめ らっで、こんど恐っかなくなったから、「川出ろ」て後ろさ投げだれば、大川出て、 そうしてこんどその川越えるに大難儀してるうちに、婆(ば)さいるうちに、よっぽど 進んできたども、また追いつかれるそうになった。んだから、こんど、「火出ろ」 て、札投げっど、その方、大火事になって、そんでよっぽど手間どっているうち に、やっとかけついて、
「和尚さま、早く、恐っかねものに追っかけらっで来たから、早く早く、どこさ か隠して呉ろ」
 て言うたば、和尚さま、
「まず、どこかええ..んだかなぁ、その井戸の上さでも上がれ」
 て、井戸の上さあげたそうだ。そしたらこんど、その山婆追っかけて来て、
「ここさ、小僧来たか、どこさか隠したか」
「おら、そんなもの知しゃね」
 て言うたど。
「知しゃねえざぁない」
「ほだら、どこでも寺じゅう探してみろ」
 て探したどもいない。段々さがして行ってこんど、井戸ンどこさ行ったば、井 戸の中に、小僧の顔面(つら)見えっずもな。
「ああ、井戸の中にいた。小僧許さねぞ」
 て、気ィ揉むと、こんど井戸の中さザボンと自分落ちてしまったわけだど。そ してとうとうそこでまず、難を逃がれて、婆(ば)さは何とか勝負したべし、まず小僧 は何なしに助かったど。
 むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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