27 団子浄土

 むかしあったけど。
 じんつぁとばんちゃと、二人暮しの家あったけど。ばんちゃは家さいて御飯出 し、じんつぁは早く起きて、お庭掃きしたけど。お庭の隅の方から団子転んで来 たど。一つ。そして食うべと思うずも、コロコロ・コロコロと、どこまでも転ん で行って、拾わんねで、チョロっと、お庭の隅の穴さ入って行ったど。そうすっ ど、じんつぁ、その穴、追っかけて行って、
「団子、団子、どこまで」
 て言うど、
   新座の宮の コケラ葺きの
   お堂の石地蔵の前まで 石地蔵の前まで
 て、なんぼ追っかんねで、そう言うて追っかけで行って、止まったとこ見たば、 コケラで葺いた地蔵さまのお堂あっけど。団子、そこさ行って、
「地蔵さま、地蔵さま、ごめんなされや」
 て、じんつぁ、入って行ったずも。そしたば地蔵の膝の上さ、団子上ってしまっ たずも。そして、
「地蔵さま、地蔵さま、おれももう少し入って行んから、ごめんなされや」
 て、じんつぁ言うど、こんど地蔵さまの手のひらさ上ってはぁ、地蔵さま、ク イッと食ってしまったどはぁ。
「地蔵さま、おれ追っかけて来た団子だけはぁ、食ってしまったが」
 て言うたば、
「おれ、あんまりうまそうな団子で、おれ手さ上ったから、堪え切れねではぁ、 食ってしまったから、その代り、晩げええ..ことあっから、おら家さ泊れ」
 そして、泊めたずも。そして、
「赤鬼、黒い鬼と大勢来て、バクチ打ちすっから、それ見てて、夜明け方になっ たら、おれ、衣の袖の中さ入ってで、鶏の真似しろ、そうすっど、鬼共みんな引 上げっから、そしたらそこさひろげっだ金、みなさらって行ってええ..から」
 て、そう言って教えたど。そしてこんどいるうちに、赤鬼や黒鬼、白鬼さまざ まの鬼共あつまって、地蔵さまの言う通り、札ひろげたずも。「丁だ半だ」てやっ たど。そうしてこんど、いま少し(ちいと) で三時、四時にもなる。大抵ええ..かなと思って、 鶏の真似して、コケコーて言うたずも。
「ああ、鶏鳴く、早く帰んねど、親方におんつぁれる(叱られる)から、歩(あ) えべ、歩(あ)えべ」
 て言うもんではぁ、札ひろげたまんまはぁ、時間に遅れたとみな鬼逃げたど。 それから、
「その札はぁ、みな地蔵さま、それ持って帰れというもんだから、団子代りだか ら持って行げ」
 て言わっで、持って来たけど。そしてばさ喜んで、何かお菓子を買ったり、う まいもの買ってはぁ、お茶飲みしったどさ、隣のばさま来たずもの。
「なんと、なんと、こら..ほどの御馳走、なじょにして買ったもんだ、おら、何も 御馳走ない」
 て言うたらば、
「おらえのじんつぁ、こういうあんばいで、そして買って来て、お茶飲みしった。 ほだから一服あがれ」
 て言うたど。
「ほんじゃ、おれも早く行って、隣のじんつぁなど団子追っかけて行って金もう けして来たから、そういう風にしてみろ」
 て言うたど。そしてこんど、お庭掃きしったらば、やっぱり団子あっけど。な んぼ掃いても転ばねな、無理無理穴さ入っでやったずも。そしてこんどはぁ、行っ たばやっぱりコケラ葺きのお堂さ地蔵さま立ってやったけど。そしてこんど、無 理無理はぁ膝さ上げてやって、地蔵さま食ったずもはぁ。
「そんでは、おれ食ったごとだもの、そのうちに鬼どもまた来っから、泊ってい ろ」
「そして札ひろげたら、いつまでも見てて、ちょうど夜明ける頃になったら、鶏 の真似しろ」
 て言うたの、あんまりいっぱい札ひろげらっだとこ見て、堪りかねて、あんま り早く鶏の真似したずも。すっど、
「なんだか、まだ時間見れば、早いようだ、あまり一刻(いっとき) に鶏鳴く勘定ない。何だか人の匂いもするようだぞ、早くそこら探せ」
 て言うもんで、大騒ぎして探したば、地蔵さまの衣の陰さ隠っでいたな見つけ らっだど。そしてさんざんいじめらっで、泣き泣き家さもどって来たけど。ばさ ま、
「おらえのじんつぁ、なんぼいっぱい銭もらって来んだか、そしたら浴衣でも買っ て、くんべ」
 なて、古い浴衣放(な)げて待ちていたずも。裸みたいになって。そうしたば泣き泣 き来たずも。そしてそれ聞いて、
「なんぼもらって来たんだか、まず喜んで、唄うたって来た。ええあんばいだ」
 て思ったらば、さんざんいじめらっで、泣き泣き来たど。んだから、欲ばって 人の真似するもんでないど。むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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