1 豆腐のすだれ

       (1)
 佐兵があるとき来て、「いや、今日、米沢城下さ行ったところが、豆腐で編んだ すだれ見てきた」て言うたど。
「何つかしている。すだれを豆腐で編んだりされんめぇちゃい」
「ほだたて、おれぁ見て来たぜ」
「ほんじゃ、行ってみろ」
 て言うわけで、わざわざ米沢の城下まで行ったずま。そしたところ、普通のす だれ、ぶら下っていたずま。
「やっぱり、縄で編んだすだれだ、どれ」
「一封 (ひとふ) 、二封、三封、四封、…」
 て数えて、
「やっぱり、十封
(とうふう) で編んだのだどれ」
 て、佐兵が言うたど。
(川井弥右ヱ門)
       (2)
 馬鹿佐兵がよ、筑茂の豆腐屋で、「豆腐で拵ったすだれあっけぜ」て、こう言う たど、馬鹿佐兵よ…。
「佐兵、馬鹿な、ほに、なんぼしたって、豆腐ですだれ編まれっか」
 て言うたど。そしたらば、
「んじゃらば、賭しんべが」
 かまわず賭ざぁしった人だったど。そして、賭すんべと言うもんだから、何の 賭だったか知 (し) しゃねげんども、行ってみたんだど。
「一封、二封、三封、四封、…」
 て、数えたんだど。そしたば、「十封 (とうふう) 」あったずも。
「ほうら、豆腐(十封)で編んだすだれざぁ、このことだ」
佐兵には、いやいや…。
(三瓶ちの)
        (3)
 一封、二封、三封…て編んだそうだ。十封 (とうふう) で切れば十封のすだれだ。ある人、
「豆腐で編んだすだれなどあんまぇちゃ」
 て、なて、もっとも、豆腐で編んだすだれなてないもんだからな。
「一封、二封、三封…て、ずうっと十封て、十でやめたから、豆腐で編んだすだ れざぁ、このごんだ」
 て。

       (4)
 雪垣の編封が、八封で編むことが決まってるんだ。それを六尺の高さで両端つ けるもんだから、八封になっていんのよ。
「今日、浅川さ行ったところぁ、豆腐で編んだ雪垣見てきた」
 て、こういう風に言うたど。
「豆腐で雪垣ぁ、編まれるもんでない」
「いや、おれぁ、豆腐で雪垣編んでだっけ」
「また、馬鹿なこと語る」
「珍らしい、行ってみろまず、豆腐で編んだ雪垣ある」
 そして、行ってみたところが、その食い豆腐とばり頭さ行くもんだから、その 人がうまくないのよ。
「勘定してみたら、ええがんべちゃえ、十あっでがや。珍らしいもんだ、こりゃ、 こりゃ十封で編んだ雪垣だ」
(集成一五六「夢見小僧」、二一一「灰坊」)(今井勇雄)
>>佐兵ばなし 目次へ