4 酒の只飲み

      (1)
 佐兵は冬になっど、藁仕事して、やんやんと居っどこさ、ちぇっと顔出すがっ たど。そうすっど。「佐兵来たらば、首はさんで呉れんべ」て、みな、戸の陰さ隠っ で…。カラーッ…。
「何しった。今日は何としった、若衆」
 て、首出した。そんで、首はさめて呉れんべどて、戸をぐいっとすっど、戸は パッと一尺ぐらいで止まんのだど。
そいつはちゃんと板っ端持 (たが) ってきて、敷居さ置いて、上がっているから、首は さまんねんだど。そして、「えへへぇ」て笑って行くのだど。そして、とうしその 藁仕事さ来て、いたずら語りして行くのだど。
(近きよ)
      (2)
佐兵という人は頓智で、人の酒を年中飲んでっから、
「今日は、あの野郎、はめないで小屋で酒飲みしろ」
 て言うわけで、藁仕事明けに藁しどきに佐兵さ教えねで、蔵の戸びっしり閉 (た) て て、肉だの魚だの買込んで酒飲みしったんだど。ところが佐兵が知ってたもんだ から、
「野郎べら、おれどこ嵌 (は) めない気だな。よし、嵌 (は) めないごんだら、また只で飲ん で呉 (く) れんなね。んだげんど、なじょしてこの蔵に入ったらええがんべ」
佐兵、味付けたど。
「やぁい、こぼれっから、開けて呉 (け) ろい」
「なんだ、嘘ば、つかして、開けろなて」
「ほんによい、こぼれっからょぃ、何にもなくて一升桝さ酒買って来たんだず。 こぼれっから開けて呉ろ」
野郎べらも、とんと本気にしたど。
「常に只ばっかり飲んでいるから、今日は一升買ってきたどこがれ」
 て、蔵の中、ガラッと開けたど。そしたら何も買って来ねずだい。
「いやいや、寒くて涙こぼれっず」
て、蔵の中さ入って行ったど。
「いや、あそこで夫婦喧嘩みてきた。いやいや、妻 (かが) が親父にぶんなぐらっじゃら ば、妻怒って、火箸持 (たが) って、親父の頭くらすけっどこ、親父ぁ何もないもんだか ら、ちょっと鍋の蓋とって、こう受けたのよ」
 て、鍋の蓋とって頭にかざしてから、 「あらら、うまいことしったな」
 て、鍋の中を見て、とうとう佐兵に飲まっだけど。
(佐藤宇之助)
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