6 猿蟹合戦

 むかしあったけど。
 猿と蟹いでやったずもの。そして蟹が大きなオニギリ拾ったど。そして猿はカキノタネ拾ったずも。そして途中で行き会ったごんだど。そしたら、猿はそのオニギリ欲しくなって、
「蟹、蟹、そのオニギリ、カキノタネと取換えねが」
 て、こう言うたど。
「これ蒔いておくじど、だんだんに大きくなって、柿という、うまいな実(な)るもんだから、取っ換えねが」
「あんまりええごで」
 て、取っ換えたごんだど。そして猿のほうぁ、喜んでオニギリむしゃむしゃ食べてしまったずも。蟹はそのカキノタネ、自分の家の前さ持って行って、土の中さ埋(い)けで、そして柄杓で水掛けて、
   早く芽を出せ カキノタネ
   出さねどハサミで ハサミ切る
 て、こう言うては水呉(く)っだど。そしたば芽ひょこんと出だずも。
   早く木になれ
   なんねどハサミで ハサミ切る
 て、こう言うてまた水呉っで、こんどずんずんその木大きくなって、柿実(な)るようになったずもの。そしてこんど、秋になってはぁ、柿、色つき出したど。そしたば、猿はまた山の上からその柿眺めてで、
「色ついた、降って行って、もいで食って呉(く)んなね」
 そう思ってはぁ、降りて来たもんだど。
「蟹、蟹、あの、いつか取っ換えた柿だか、実(な)ってだな」
「ほだ、落ちて来たな食うかどて、毎日眺めてた」
 て、こう言うた。
「おれ、もいで呉っから…」
 そして登って行ったど。そしてはぁ、おさえて見て、柔(やっ)こいような捩いではぁ自分ばり食うずもの。
「自分ばり食ってねで、おれっちゃも捩いでよこして呉(く)ろ」
 て、こう言うたずも。
 そしたら、あまり赤くもなんねぇようなもいで、鼻なのこぐって投げてよこすずも。
「こんな固いな食(か)んねぇから、柔(や)っこいようなどこ呉ろ」
 て言うずも。また別な舐めて、尻の頬などこぐって投げてよこすずも。
「そんな意地悪しねえで、うまいどこ一つ捩いで呉(く)ろ」
 て、そう言うど、こんど、
「よしきた」
 て捩いで、その蟹めがけて投げてよこしたずも。柿固いな投げらっだもんだから、甲羅つぶれてしまったずも。そしたら親は死んでしまったど。それ、子蟹、脇で見てて、泣いっだど。猿は持って、たくさんうまいどこ食って逃げて行ったずも。そしてオイオイ泣いっだどこさ、臼、ゴロンゴロンと転んできたど。
「はて、なして泣いっだ」
 て聞いたど。そしたば、
「おらえのおっか、猿に固い柿もいで、ぶっつけらっで、殺さっでしまったも」
 て、こう言うて泣くど。
「よしよし、おれ仇(かたき)とってくれっから泣くなよ」
 て、こう言うたど。そしてるうちに、蜂ブーンと飛んで来たど。
「蟹、蟹、なして泣いっだのであった」
 て聞いだど。
「おらえのおっか、猿に柿ぶっつけらっで、死んだもの」
 こう言うど。
「おれも、ほんでは仇とってやっから泣くなよ」
 そしていたどこさ、こんど栗転んできたど。そして栗もその話聞いて、
「んでは、おれも仇とってくれっから」
 て、三人で相談してはぁ、家の中さ入ったど。そして猿来る頃だと思って、栗はこんど炉の中さ隠っであったど。それから寒い日であったど。蜂は味噌桶さ隠っであったど。蟹は、
「お前は流しにいろ」
 て、臼教えたど。そして臼は廊下の上さ隠れたど。そしてるうち、猿来たずもの。キチョ、キチョてよはぁ。そして、
「寒い、火でも、ほげて当んなね」
 ぐいぐいとほげっど、栗、バーンとはじけたずもの。
「熱(あ)ぢ、あぢ、あぢ…」
「まず、水でも掛けんなね」
 流しに行くど、こんど蟹にはさまったど。「蟹、はさめよ」て教えっだもんだから。
「いや、いたい、いたい、味噌でもつけて」
 こんど味噌桶さ行ぐど、蜂に刺さっだど。
「いや、こんな恐っかない家さいられるもんでない」
 て、逃げると、臼、屋根から、ゴロンゴロンゴロン、うんと落ちて、こんど猿さ、とっちめでしまったど。そして「早く来い」て、蟹さん呼ばって、そして猿の首、ハサミではぁ、こう、チョキチョキと切って、仇とらせだけど。むかしとーびん。
 
〈話者 川崎みさを〉
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