20 団子どの-団子浄土-

 むかしあったけど。
 おじいさんとおばあさんといで、ばさまは流しではぁ、朝の御馳走つくり、じさまはお庭掃いたど。そしたら大きな穂一本落ちてたど。むかしは穂一本でも粗末にしねがったもんだから、
「ほう、もったいない、もったいない。ばさ、ばさ、こんな大きな穂一本拾ったから、まずこれ搗いて団子でも拵(こしゃ)え」
 て、こう言うたど。そしてこんど、その穂むしってはぁ、団子に作ったど。一つほかて出ないがったど。まず上げろって、お仏さまさ上げたことだど。お仏さまにネズミ穴あって、そさコロコロンと、まぐれて入ってしまったごんだど。
「おやおや、こんど、ネズミ穴などあったんだな」
 て、じさま、その穴、こんど辿って団子さがしたごんだど。そしたばずうっと縁の下から軒場の方通って、大きな穴開いっだずもの。それからこんど追かけて行ったど。そしたば団子コロンコロンと転ぶずす、
   団子どの 団子どの どこまでござる
   新座の宮のコケラ葺きの お堂の石地蔵の前まで
 て、また「団子どの、団子どの、どこまでござる」「新座の宮のコケラ葺きのお堂の石地蔵の前まで」て。それから行ってみたば、なるほど石地蔵立ってござったずも。
「地蔵さま、地蔵さま、団子来ねがったべか」
 こういうたど。
「あまり、うまそうな団子一つ転んで来たけがらはぁ、食ってしまった」
 ていうずも。
「やれやれ、おれもやっと穂一本見つけて拵えた団子ななであったけども」
 て、こう言うたけど。
「ほんでは、まず仕様ないから、食ってしまったけがら、お前に何も礼の仕様もない。おれどこさ鬼ども集まってバクチ打ちするから、今夜はおらえさ泊れ」
 て、
「その鬼どもの金でも持たせてやっから」
 て、こう言うたど。そして、
「この屋根裏さ隠っでで、ニワトリの真似しろ」
 て、こう言うて教えたど。そうすっど、地蔵さまのうしろの方から、屋根裏さ登ったごんだど。そしていたば、夜になったか、こんど来たずうもの、赤鬼に黒鬼に、青鬼に…。
「なんだ、地蔵さま、地蔵さま、人くさいでないか」
 て来たど。
「人なんていねんだぜ」
 て、こう言うたど。
「いや、何だか人くさい」
 て言うど、「人など来ない」「ほだか」。そうして丁だ、半だて始めたど。ほうしているうちに大抵、一番トリええかなぁと思って、板ばパタパタ、パタパタコケコーて言うたど。
「ほう、何時(いつ)の一刻なもんだなあ、ほら一番ドリ鳴いたぞ」
 そして、いまちいと経(もよ)うずど、パタパタ、パタパタ、コケコー。
「はぁ、二番ドリだ、さぁ夜明けっから、この金などしまってる暇ない。地蔵さま、また来っからはぁ、このまま行くぞ」
 て、みんな行ってしまったど。
 そしたば、地蔵さま、
「じさま、じさま、降りてこい。みな鬼共、金置いて行ったから、早くこれ持って家さ帰れ」
 て、そうしてはぁ、それもらって家さ帰ったど。そしてばさまにそれ見せっだど。そうしたら、隣のばさま来たずも。
「おみたち、こらほどの金、なじょしてもうけてやった」
「いや、おらえのじさま、団子一つさ追かけて行って、地蔵さまにもらって来たど」
 て、こう教えたど。そしたば、
「ほんでは、おらえのじさま、のらくらと何もしないでいっから、団子でも拵(こさ)えて、んではおらえのじさまもやんなね」
 て、そして家さ行って、まず米櫃あちこち集めれば、一つ拵えたごんだど。そうしてその穴さ入っでやったども、仲々まくれねずも。んだども、じさまゴロゴロとはぁ、転ばし転ばし行ったど。そして行って、地蔵さまやっぱし立ってござったど。
「地蔵さま、団子来ないがったべか」
「いや、来たけ、そら、そこにある」
 つうずもな。
「ほだども、今頃来たでは、お前帰らんねべから、おらえさ泊れ、そしてこんど、鬼共きてバクチ打ちするから、この天井裏さ隠っでで、ニワトリの真似しろ、そうせば鬼共帰るから」
 ていうて、やっぱり教えたど。そしてそのじさまも登っていたど。そうすっどまた鬼共来た。
「フンフン、やっぱり何だか昨夜(ゆんべ)なから、地蔵さま、人くさいな」
 こう言うど。
「そんなはずないどもな」
 て、
「何だて、昨夜な頼んで行った金もないし、おかしいぞ」
 て言うど、
「いやいや、そんな、人など来ないども、お前だ考え違いだべや」
 て言うたど。そしてそのうちに、
「ほだか」
 また始めたど。そうするどはぁ、じさ、ええ頃だと思ってはぁ、「コケコー」なてはぁ、言うたど。
「何だか、今夜のトリは下手なようなトリだども、一番トリだな」
 なて、やっていっずもの。ほうして、つうと(少し)もようど、また鳴いたど。
「二番トリだ。夜明ける、さぁ早く帰んねねで、まず、あの金また頼んで行く」
 て言うど、じさま喜んではぁ、ケラケラと笑ったそうだ。
「そら見ろ、地蔵さま、人いたから…」
 つうもんで、「そら探せ」て言うもんで、探さっでしまったど。そうしてこんどはぁ、引っぱり落さっではぁ、
「おれぁ頭食う、おれぁ足食う、いや、おれは背中の方だ」
 なんてはぁ、みんなではぁ、あっち刺し、こっと裂きして食ってしまったけど。ばさまは待てど暮らせど、じさま帰って来ながったで、そしてはぁ、ばさまもさびしく過ぎてやったけど。んだから人の真似なのするもんでないけど。むかしとーびん。
 
〈話者 川崎みさを〉
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