41 紫式部の唄よみ

 むかしあったけど。
 むかし宮中で歌の会、ときどきあったど。あるとき、紫式部という方が、なんぼか上手歌よんだど。そしたら朋輩衆に、
「お前の母親は歌の名人だもの、これは母親に聞いた歌だべ」
 て、そう言わっだど。そしたら、紫式部は残念で、あの係の方が自分の前通るとき、お袖をおさえて唄よんだど。
   大江山 いく野の道の遠ければ
    まだすみを見ず 天の橋立
 て、おかあさんが遠いとこにいてやったど。そんでそんな見る余裕なかったって、そういう歌であったど。むかしとーびん。
〈話者 川崎みさを〉
>>さとりのお化け 目次へ