44 阿波の徳島十郎兵衛

 むかし、阿波の国に、阿波の徳島十郎兵衛という人いだっけど。何かの罪で、国におられず、一人娘のおつるという、かわいい女の子も母親に頼み、遠い国の山奥で狩りをしたり、旅人を襲いお金を盗ったりして暮しったけど。
 阿波の国では、おつるも十二才ばかりになって、ばばちゃに、
「おれのおとっつぁんやおっかさんは、なじょになったなやぁ」
 て、毎日聞くもんだから、三人でお前をばばのおれにあずけて出て行ったが、風の便りに生きてるらしいから、お前探しに行ってみっかって言ったど。そして、笈摺(おいずる)という巡礼の着る着物に笠とに、同行二人と書いて、それは、一人はお大師さまの陰たのみななだど。それを着て笠をかむって鈴を持ち、ばばちゃに聞いた親の年格好の人を探しさがして、ある山小屋のような家に来たど。そして巡礼に御報謝願いますというと、自分の心に描いた、年格好のおっかぁが出てきて、
「おやまぁ、こんな年波もいかぬ子が、可哀そうに…」
 と思い、国はどこで、名は何というか、また親の名は…などと、「わが子もちょうど…」このぐらいになったべなぁと思うもんだから、やさしくして、腰掛けて休め、なにか食べろの、といったげんど、おつるも嬉しくなり、
「はい、国は阿波で徳島の、トトサマは十郎兵衛、ハハサマはおゆみと申します。そのトトサマ、ハハサマにお会いしたくて、こうして探して歩くのです」
 と言うたど。そのときのおゆみの驚きはもう少しで、そのハハは、このおれだと口まで出かかったが、親父どのは泥棒にまでなりさがっていることを、どうしてもこんな可愛いい娘に聞かせらんないと、心に思いつい涙をぼろぼろこぼしたど。それを見て、おつるは、そんなに泣いて呉れっどこ見っど、もしやカカサマでございませんかと聞いたど。おゆみは慌てて涙を拭いて、
「いやいや、お前のおっかさまではないが、あまりかわいそうなので、つい涙が出て、しょうがない」
 と、立って行き、お金たくさんもってきて、「これを御報謝しますから、早く麓の村ささがり、そしてばばさまの待つ阿波に帰った方がよいと思う。お前の、そんなに会いたがっていることを、親たちがどこかで聞いて、お家に帰ってるかもしれないから…」
 と。親ではないかと泣くおつるを、早く親父の帰らぬうちにと、なだめすかして、送りだしてやったけど。運悪く、まだ村にでないうちに、あまり獲物もなく、テクテク帰る十郎兵衛に行きあってしまったど。そして何も言わずに絞め殺し、ありだけのお金をとって、家に来て、自慢気に話したど。いや、おゆみは驚いたり悲しんだりで、今日のことを話して聞かせ、それは娘のおつるだといわれて、十郎兵衛もいままでも、おゆみに泥棒だけはやめてくれと、たびたび言わっでだが、なかなかやめられなかったっけど。自分の子を殺し、ようやくわるい目がさめ、頭丸るめて娘や、今までの人々をともらったけど。むかしとーびん。
 
〈話者 川崎みさを〉
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