46 岩見重太郎

 むかしあるとこに、鎮守さまが、その当時の娘ば人身御供にとるどこあったど。そしてそこの家さ白羽の矢立つど、どうでも上げんねねがったごんだど。箱さ入れてはぁ。そさ、むかし偉い強い侍で、岩見重太郎という人いて、その村通りかがって、庄屋さんさ泊ったど。そうしたば、
「泊めて下さい」
 て言うたば、
「今夜は、とり込みだども、まずどこがさ、ほだら部屋もあんべから、泊まれ」 「どんなとり込みだ」
 て聞いたば、
「実は鎮守さまさ、家の娘、このたび人身御供に上げんねねことになってはぁ、それ当ったごんだ、今までも村のうちに代り代りに上げらっだんだども、この度はうちんのが、白羽の矢立ったごんだ。おらえの屋根さ」
 て、こう言うごんだど。泣いて教えっずも。
「鎮守さまとあるものが、そんなはずはない。そんでは、おれ代りに箱さ入って行ってみるから、娘でなく、おれば入れろ」
 て、そう言うたずも。そうして今度はぁ、箱さ綿帽子かぶってはぁ、娘の仕度して、入って行ったごんだど。そうして行って箱置くど、村の若衆はビンビンと跳ねて来たど。
 そして、いつでも、いま来っか、いま来っか、なじょなもの来っかと思って中で考えっだじもの。刀は短かいなもって、そのうちにこんど、雷など鳴って、何かドサーッと社(やしろ)の前さ落ちたど。そうしているうちに、その箱の蓋、ミリミリミリと破って開けるものあっずもの。そうしたら夜目にもわかるような赤い顔した白いような者だずもの。
 そうすっど、その喉のようなどこめがけて、手掛けようとしたとこを、突き上げたごんだど。そうすっど、キャーッという声だずもの。そして箱から飛び上がって、あちこっち突っついたど。そしてまず箱さ入っで、かつねで来(こ)らっだから、方角も夜のことだし、よく分んねから、夜明けてからすんべと、そう思っているうちに、夜ほのぼのと明けたか、村の衆、遠くから、
「いたか、お侍、いたか」
 て来たずもの、
「いた、いた」
 て。そうしたば、みんな集まった。よく見たば、年経(へ)た狒狒(ヒヒ)であったど。そうしてはぁ、そういう風にして、娘ば食ってだなであったど。村の衆に大変喜ばっでだけど。むかしとーびん。
 
〈話者 川崎みさを〉
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