12 三人の死人

 むかしとんとんあったけずま。
 あるとき、法印さまと軽業師とお医者さまと三人一どきに死んだんだど。ほしてずうっと三途の川渡って行ったらば、娑婆にいたときええことしたか悪(わ)れことしたか、みな写し出される大きい鏡あったんだど。その鏡を見て、エンマ大王が、
「お前は地獄、お前は極楽」
 て決める分かれ道なんだど。
 法印さま、一とう早く行ったら、
「こらこら、鏡さ写してみろ、うん、なんだおまえ、こうこう、こういう悪いことしたどら、駄目だ。お前は地獄」
 地獄の方さ行った。
「医者、お前も写してみろ、なんだお前、こういう風にして患者殺した。こういう風にして余計な銭とった。駄目だ、お前も地獄」
「軽業師、なんだお前、ちっちゃこい子どもそっちから集め、こっちから集め、さんざんいじめたな。駄目だ。お前も地獄」
 て、三人とも地獄さ入れらっだ。ほうして地獄さ行ったらば、次の日、
「三人とも剣の山登れ」
 て、赤鬼に言わっだんだど。ほうしてみな青くなったんだど。ところが、軽業師は平気なんだど。
「いやいや、袖すり合うも他生の縁だ。お前だおれと一緒に剣の山登れ、あだな何ともない」
 て言うど、二人ばちょいと右と左さかついで、剣の山、何ともなく登るんだど。軽業師だから…。調子とって…。
オイット コラ ドッコイ
ドッコイショ ドッコイショ
 なんともない。そいつを見っだ鬼ども、
「うん、あんでは駄目だ。釜ゆでしてしまえ」
 ぐらぐら、ぐらぐら煮っだ釜さ入っで釜ゆで。こんど他の人みな、
「いや、今度ぁ釜ゆでではとても助からね。困ったもんだ」
 て思ったらば、法印が、ねっから魂消えねど。
「よし、いま助けてもらったから、おれも一つええことある」
 ほして、何か呪文となえっだけぁ、水の穂(法)を結んだんだど。ほうすっど、お湯が水になってしまうんだど。
「いやいや、これは冷たいすぎる。いまつうと(少し)焚けぁ」
 て、こんどぁ言うて、
「こんどはええ燗(かん)だ。ああ、ええあんばいだ」
 なえだて三人は湯治気分だずもほれ。ほうしたれば鬼共ぁ、
「この野郎だ、こりゃうまくない。何とも仕様ないから、ほだら丸べて食(く)てしまえはぁ」
 一番大きい鬼ば呼ばて来て、大きい口開いて、三人ばヒョロヒョロとのんでしまったんだど。ほしたれば医者さま、ほれ、下剤持ったんだど。ほうすっどこんどぁその鬼ぁ、
「いやいや、腹いたぐなった」
 ているうち、どこここ、ジュグジュグ突っついたんだど。三人が腹中、
「いや、こっち痛い、いやいや腹いたい、腹いたい」
 なているうち、下剤もったんだから、まもなくキリキリキリなて、腹いたくなってはぁ、ストンと出はってしまったんだど。三人共。ほしたけぁ、
「こだな野郎べら、地獄さ置いたて仕様ないから、にさだ(お前たち)娑婆さ行げはぁ」
 て、娑婆さ追(ぼ)ってよこさっだけど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
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