19 初夢のはなし

 むかしとんとんあったけずま。
 むかしはこの初夢ざぁ人さ語らねもんだていうこと、たとえていだんだけど。ある時、「ええ初夢見た」て、酒買いに行きながらある人語ったれば、酒屋の旦那が、
「ほだえ、ええ夢だら、酒三升でおれさ教えろ」
 て言うたんだど。
「ええっだな。おらえの家さ乞食(ほいど)みたいな六部さまみたいな来て、ほいずば扱っているうち、その人はちょいっと便所貸して呉らっしゃいなて言うて、この荷物ちょえっと此処さ置いでけらっしゃいなて便所さ行って、便所さ行ってみたれば居ね。ちょいと置いで行ったの何だべと思ったれば、ドサッと大判小判ザクザク置いて居ねぐなったんだどはぁ。そしてそこの家さ、銭、ほれ、いっぱい置いで行った」
 て、初夢、酒屋で語ったれば、
「いや、三升でどうか、その初夢、おれさ売ってけらっしゃいはぁ」
 て、ほして三升で売って来たんだど。ほしたればその酒屋さやっぱり乞食みたいな来て、便所さ行って、便所貸して呉らっしゃいて行ったけぁ、居ねぐなって銭ばり置いて行ったなて言うことあったんだど。んだから初夢ざぁ決して他人さ語らんねもんだていう話あったんだど。
 ところがある家で正月二日の初夢の晩、みんな宝船折って寝たんだど。ええ夢見るように、一番ええ夢、一富士、富士山は山がかなう、一番大きい山かなう。二鷹、三ナスビ。ていうんだが、鷹は鳥の王者である。鳥というのは何か獲ることを意味する。ナスビは何だかていうど、ナスビには千に一つの無駄もない。花千咲くど、千実(な)るのがナスビの花だていうので、一富士、二鷹、三ナスビて昔から言うてだわけだ。て、ある家でみんな起きて、
「おれ、何(なん)た夢見た」
「おれ、何た夢見た」
 て言うたげんど、その話聞いだげんど、その長男だけは絶対に語らね。「語らんね、喋らんね」。したればそこのおっつぁんがごしゃえで、
「おれさ語らんね話ざぁあんまいな」
「んだて語らんね、ええ夢見たから語らんね」
 て言うたんだど。この野郎、んだらばていうわけで、俵さ入っでしまって結(ゆ)って川さ流したんだどはぁ。ほしたればお葉山から天狗さま、はいつ見てて、
「あらら、初夢流っで来るらぁ、拾わんなね」
 て言うて、天狗さま、ガラガラ走って行って川中からその俵引っとり上げて、いきなり俵ほどいて、
「ああ、君、君、君は初夢で流さっで来たな」「ほだ」「ほうか、よし、ほだらばおれ、その初夢お前から買うから、おれがこの鳥の羽根のウチワと交換しろ」
 て言うたんだど。
「んだて、ほだな何かになっかよ」
「とんでもない、これはええもんだ。出ろて言うたものは何でも出る。ほれから空も飛ぶいから、ちょっと飛んでみろ、飛び方教えっから」
「どうか貸して呉らっしゃい、なぜ言うと飛ぶいなだっす。天狗さま」
「ええか、いまおれ教える。こういう呪文をとなえんなね。テンペンライのプイプイ、オテンペンのスッポンポンて言うど、蔵王山ぐらい一と飛びだ」
 しゅうと蔵王山一と飛びして行って、またしゅうて飛んで、
「いや、これぁ天狗さま、取っかえんべ」
「よし、んだらお前の初夢もらったぞ」
「はい、ほんでは天狗さま、この鳥の羽根のウチワたしかに頂戴します」
 ほしてそいつ持(たが)って、ずうっと上山の町さ降って行ったれば、いろいろのことがあって、上山一のお金持の娘さんが体悪れぐしったけぁ、ポックリ逝くなってはぁ、家内中親類縁者みな集まって悲しんでいだんだけどはぁ。そこさ行って、
「何して、ほだえ悲しんでいた」
「いや、一人娘、こういうわけで逝くなってみな悲しんでいだったけのよ」
「ほうがっす。んではそのお仏さま、おれさ貸していただがんねべが」
「何しらはるもんだ」
「何とかかんとか生かして見っだいから」
「いや、それは願ったりかなったりだ」
 そしてこんどは、天狗さまからもらった鳥の羽根のウチワで、こころで呪文をとなえながら、
テンペンライのプイプイ
オテンペンのスッポンポン
 て言うて、そのお仏さまをスウスウと三回撫(な)でたら、きれいな目(まなぐ)ぱっと開いてクルクルそこら見廻して、
「あっ、おれまだ生きっだんだな」
 て言うような表情で、そしてこんど息つき始めて生き返った。したら家内中みな喜んで、
「いや、どうもありがとうさま、ありがとうさま、生かしていただいて神さまと同じだ。ほんではもし何だったら、おらえの娘ど一緒になって、おらえの聟どのになって呉ろはぁ」
 て言わっでそこの聟どのになることにしたんだどはぁ。ほうしてこんど、銭出ろていうど銭出んべし、ほら馬のええな出ろていうど馬のええな出る。何でもウチワもってるもんだから、そこの家ではすばらしい貴重がらっだわけだ。
 ところが、ほだいしているうち、殿さまのお姫さまがぽっくり逝くなった。その噂聞いて、殿さまから、
「何とかしてうちの娘をなおしていただきたい。生かしてもらいたい」  こういうわけで、こんどは殿さまさ行った。ほしてまた、先やったと同じに撫でさすってやったら、また息吹き返して生き返った。そしたら殿さま言うには、
「おらえの家さ聟になって呉らっしゃいはぁ、おらえの娘の聟になってけらっしゃい」
 んだげんども、
「実はこうこう、こう言うどさ聟に行ったんだ」
「んだらば何とも仕様ないから、十五日間おらえさ聟になってけらっしゃい。そして十五日間は向うの家さ行って暮すようにして…」
 ていう話がまとまって、十五日ずつ、あっちの聟さま、こっちの聟さまになったんだど。ほうしたれば、ある時、嫁さまと嫁さま喧嘩始まったんだど。
「おらえの家さばっかり来てけろはぁ」
「おらえの聟、お前盗ったんだ」
て喧嘩したんだど。こんどはその人ぁ、
「いや、喧嘩なのさせておかんね」
 ほして、こんどはそいつを天狗のウチワで喧嘩もおさめた。 「これは楽しいことになったもんだ。アハハ、アハハ」
 て笑ったれば、奥さんに、
「何ほだい父ちゃん、笑っていんなだ、夜中に何してんなだまず」
 て起こさっだ。ところがほいつが本当の初夢だったど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
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