20 おりや峠の蛇

 赤山に、むかし助左衛門という木びきと、おりやという夫婦者がいたんだけど。
 ある日、助左衛門が山から蝮を三匹とって来て、味噌漬けにしたんだど。ほして、
「三年間経つど食(く)いぐなっから、それまで食うでないぞ、蝮には魔性があっから」
 と、おりやに言って置いだんだど。んでもおりやが食(く)てみだくて食(く)てみだくてしようなくなって、つまんで少し食(く)てみたんだど。ほしたればうまくてうまくてこたえらんねぐなって全部食てしまったんだど。ほしたら喉乾いて喉乾いて、しょうなくなったんだど。柄杓でドクドク飲んでも足んねくて、手桶さかぶついて飲んだどはぁ。ほんでも足んねくて、上山川さどんどん、どんどん走って行ってドクドク、ドクドク飲んでいるうちに、何だか体が変になって来たから、水鏡さ写してみたれば、すでに自分の体が大蛇になっていたんだけどはぁ。
「これでは家さ、とっても帰らんね。山奥さでも入って行かんなねはぁ」
 て言うて、今の 沢(ざわ)というどっから、ソロソロ、ソロソロと山さ入って行ってしまったんだどはぁ。ほしてあるモヤモヤした曇り日に、下の方見てみたれば、もと自分の友だちだったマサエちゃんやらオサキちゃんやら、草刈りしったんだけど。
「ああ、会いだくなった」
 と思ってそこさ出はって来かかったんだど。ほうしたればオサキちゃんとマサエちゃんが草刈りしったれば、山の木がモクモク、山の中腹あたりがムクムク、なまぬるい風がザバザバ、ザバザバ吹いて来たと思ったら、大きな蛇がニョロッと頭出したんだど。ほうして二人は魂消て、びっくりしてはぁ、腰抜かしてしまったんだどはぁ。はいつ見っだ蛇が、
「あぁ、おれはもう蛇になったんだな。おれはあの友だちだと会わんねぐなったんだぁ」
 と思って、また山さ引込んで行ってしまったんだどはぁ。
 腰抜かして歩かんねもんだから、家さ帰らんねぐていたんだど。そしたば家の人ぁ、あんまり遅いもんだから、探しに来たんだけど。ほして、
「何したどこ」
「恐っかい大蛇出てきて、ぶったまげて腰抜けたんだべした」
「腰抜けだつて、立ついべぁ」
「何だか分らねげんど、小便みなむぐってしまったのよはぁ」
「うん、ほうか、んでは、負(う)ばって行(い)じゃ」
 連(せ)て来たんだど。
 ほしてある夕方、長才(ちょうさい)という盲のあんまさんが二井宿方面から七ヶ宿方面に商売に行く途中、三つの宿の分岐点の峠できれいな水で喉をうるおしながら、得意の琵琶を鳴らしながら、琵琶唄をうたい始めたんだど。ほうしたら、琵琶の音に聞き惚れて大蛇になったおりやが、きれいな女に化けて、吸い込まれるようにして出てきたんだけど。目の見えないはずの長才に、そのきれいな女のあで姿がはっきり見えたんだど。ほして、
「坊さま、坊さま、何(な)んてやるせない琵琶の音だ。我慢さんないくて、おれが出はってきた。もう一度聞かせてけらっしゃい」
 ほんでなくても鳴り物の好きな蛇のことなので、長才はおかしいと思いながら、
     ソレ タツジンハ タイクンス
    …
     ビャビャン ビャビャン
 そうしたらこんどはそのおりやが物語り始めたんだど。
「坊さま、坊さま、何とかおらと一緒になて呉(け)ろ。実は今まで大したことはないんだげんど、上山三万石、一町二十ケ村、全部泥海にしてお前と暮したいんだが、このことばっかりは他言無用だ。誰さも言うなよ。これを人さ言うてしまったらお前がコロッと死んでしまうぞ」
 て言うたんだど。そこで長才は考えたんだど。自分のような目の見えない片端者が死んでも、上山三万石、一町二十ケ村を救わなければなんないと思って、いきなり踵(きびす)を返してもどって、まず、ツポカポ、ツポカポ杖(つれ)棒(んぼ)つっぱりなが、急いで急いで、楢下村まで帰って来たんだど。して庄屋さんさ行って門を叩いたんだど。v 「お願いします、お願いします」
 小走り役の人が出てきて、
「何だ、こだい忙がしいようにして」
「こういう忙がしい用事あっから、庄屋さんさ取次いでけらっしゃい」
 ほして、庄屋の前で大蛇の言ったことを全て話して聞かせたんだど。ほして、
「おれが死んだら本当だし、死ななければ嘘だし…」
 て言うか言わねか、コロッとまいってしまったんだど。そこで庄屋が村中集会を開いて、このことを一部始終をみんなに語って、鍛冶屋さ鉄の棒を作らせて、七ケ村の助郷の人員の応援を求めて、そしてその人を山さ皆して入って行って、オオヨモギ山、コモヨギ山、カマサワ、タラノキザワ、マゴエモンザワ、ゼンシチサワ、フカサワ、オアミゴンジローヒド、ヨサヒトにかけて、山のどこここ構わず、鉄の棒をジュグリジュグリと刺して歩いたんだど。ほうしたれば、蛇に一番大毒は何といっても鉄の錆なので、大蛇が七日七夜苦しんだんだど。ほして尻尾ばパタパタ、パタパタてさせて、とうとう死んでしまったんだど。その尻尾パタパタてして出来た山の真中さできた沼があったんだど。ほで、今でも上山の奥の方さ、「沼」ていう地名が残っているんだど。ほしてあの辺を掘っど、直径三尺もある大蛇の骨が出るんだど。で、地元ではその骨を骨接ぎの薬といってすりおろして怪我したどこさ貼ったりするんだど。それから大蛇がすうっと入ったり出たりした沢を、今でも「 沢(ざわ)」ていうのだど。それから、「あっちの沢ええか、こっちの沢ええがんべ」の「そっつか沢だべ」て言うたほで、あそこの沢は、「ホッツカ沢」という名も残っているんだど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
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