21 鴨とり吾平

 むかしあるところに、吾平さんという人いだんだっけど。
 その人は毎日毎日、鴨せめなんだけど。ある日、鴨いっぱい獲って、ひょいとせめっど、腰さちょいとはさみ、またひょいとせめっど、腰さちょいとはさみ、何十羽とせめてしまったんだど。ほして首ひねって殺した勘定だげんど、はいつがみな一どき生き返ったけぁ、飛んだんだど。バタバタ、バタバタ。ほうしたら吾平さんもろとも宙天高く天上までぶち上がってしまったんだけどはぁ。
「いやいや、とんでもないところまでぶち上げらっだ。なじょすんべ」
 なているうちに一足抜け二足抜けしったけぁ、さっぱりいねぐなったけぁ、逆さまえ、吾平じいさんがドシュンと落っでしまったんだど。ほして見たれば、あんまりいきなり落っだもんだから、目の玉二つ吹っとんで行ったんだどはぁ、どさか。
「こりゃ困った、目の玉どさ行ったべ」
 と思って、手さぐりでさぐったれば、あるんだけど。
「ああ、あった。砂まびれなったから、砂のごって目の中さ入っでやらんなね」
 と思って、目の中さちょろっと入っでやったれば、さっぱり見えねんだど。そして胃袋なの心臓なの、肺なの見えるんだけど。
「あらら、こりゃ逆に入った。こんでは仕方ない」
 て言うわけで、こんどぁ、はいづ取り出してまた別に入ったれば、やっぱり見えるんだけど。ほして、
「一つばりでないはずだ。いま一つあんなねな」
 て探したれば、脇にあるんだけど。
「この畜生、ここさ居たま、こりゃ」
 そいつばまた砂パッパとはたいて着物で拭(ぬぐ)って目の中さ、ちょろっと入っでやったんだど。ほして「こんど、ええ」て家さ来たれば、夜中になったればズキンズキンて病(や)めて来たんだど。
「はて、とんでもない痛いもんだ、医者さでも行かんなね」
 と思ったれば目の玉と間違えて桃の種子入っでしまったんだど。ほうしたれば桃の種子から桃の木が出て、むかしは早いもんではぁ、桃栗三年で熟(う)っでしまったんだど。ほして、「桃、桃」て、上山さ桃売り行ったんだど。ほしたれば、上山の殿さまにごしゃがっだんだど。奉行所から、
「なんだ、そんなもの目さ出して歩くど、往来の邪魔になっから切ってしまえ」
 て、ごしやがっだ。
「お前切らんねごんだら、おら方で切って呉(け)んぞ」
 切らっだんだどはぁ。桃売りさんねんだど。ほうしたればその切った根っこさ茸はモサモサ出たもんだから、こんどぁ、茸いっぱい出て、家で何としても食んねもんだから、上山さ、「茸、茸」て売りに行った。ほしてるうち、ぶっ杭(くい)がくさっでしまって、そっから取っでしまった。ほうして取っだ跡さ雑魚いっぱい溜(たま)って、鮒こ溜った。んで、こんどは鮒こせめて、「ふな、ふな」て上山さ売りに行った。何だか考えて見たれば、馬鹿くさくなったから、その湖みたい、どかっと出来てしまったとこさ自分入って、吾平さんが死んでしまったどはぁ。ドンピンカラリン、スッカラリン。
>>佐藤家の昔話 目次へ