25 とりおやじ(2)

 姥(おば)懐(ふところ)から楢下さ来っど思ったら、何だか山から白兎ぁ、下りまえ馳け足やってるんだど、ドンドン、ドンドン。
「兎ざぁ、下りまえ走んない。登りまえさ走るってこと聞いっだった。なしてこだい下りまえ走んべ」
 と思ったんだど。
「不思議なこともあるもんだ」
 と思って、久しくこうして見っだんだど。ほうしたれば、そいつぁ尽きるもんでないんだど。たちまち下白くなったんだどはぁ。おかしいこともあるもんだと思って、そこさ行ってみたど。したれば、ホレ、そこのシクジリノ山、シメジ出たな、大きくなってはぁ、自分の力で、急勾配なもんだから、支えらんねぐなって、下りまえ転げて来(く)んのだど。シメジの株ぁ白兎に見えたんだけど。ほこで馬車七段半、シメジつけだったど。
 それからずうっと登って来たれば、猪二匹喧嘩しったけ。どさ行くべと思ったら下りまえ、タッタ・タッタと走って行ったけぁ、おらえの家の厩(うまや)さ入っただな。ほんどき、おらえにすばらしい難艱(なんか)馬(うま)いて、二三回ドイドイと、ふごぐらっで、猪二匹は参ってしまっただま。猪二匹、ただおれぁ貰ったっだな。
 そっからずっと登って行ったれば、峠の法印さまさ、誰納めたんだべ、白いぼんでん、いっぱい納まってだ。しかし豪勢な人もいるもんだと思って、奥の院さ登って行って見たれば、そいつ山の白百合だっけど。
「こりゃ、黙っていて、秋さか掘らんなね」
 こう思ってで、秋になってから行って掘ったら、カマス七俵半あっけど。ぶっかきぶっかき掘ったれば…。
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