6 狐の嫁入り

 泉岡(高畠町)に棺屋がいてやった。
 夕方、棺作りしったとこさ、ダダーッと一匹の小さな狐が入って来た。そうすっど、棺拵(こさ)っていた桶、バッとかぶせたんだど。そのうしろさ大きい犬が来たど。
「ああ、やっぱり、犬に追わっじゃんだな」
 その辺りはずうっと萱野であったそうだ。二つ森から泉岡さ出る道はなぁ、そして久しくいたげんども、暗くなって、犬もいなくなったし、それから棺屋は、
「そげな小っちゃこい身体(なり)して、一人ばり騒(さわ)んから、そういうもんなんだから、気を付けろよ、今度犬なんか追わんねように、行けよ」
 と放してやった。
 ところが、それから何年ぐらい経ったんだか、しばらく経ってから、侍のような姿して、二人が棺屋に訪ねて来たって…。そして、
「この前に、二つ森のお姫さまが助けていただいた。こんどはいよいよ高玉(白鷹町)のお稲荷さまにお嫁入りだ、呼び申して来いといわっで来たんだ」
 て、お使いが来たど。そしてその棺屋が、
「そがなことあるもんだべか」
 て思ったげんど、馬鹿にさっだと思ったげんど行ったど。
「ここで、目隠しして、背負(おば)っておくやい」
 ていわっで、背負(おば)った。そして降ろさっだところが、すばらしい立派な御殿の座敷さ降ろさっだ。
 そして、そのムカサリもちゃんと整って、今度いよいよ御馳走が出て、ムカサリが行ったんだど。それが大名行列と同じだったど。鋏箱から何から、篭さのってなっし…。そしてこんどは、お膳さ出たものは、お分けにして包んで、そして持たせらっで、また背負(おば)って、目隠しさっで、道まで送らっで来た。そして家に帰って来て、お分けを見たところが、お分けが大抵魚だら一匹まんま、鯉だら一匹まんま、塩引きだら一匹まんま。そんでも庖丁のかかったのは一人前だけあったど。それがそこ通って行った祝儀帰りの人のお分けだったけど。(むかしのお分けは「苞(つと)こ」だった)そのものだけが庖丁掛かっていたっけど。そして使わっじゃもので食んねものは、蛙(びっき)の乾物だけだっけど。
「やっぱり狐だなぁ」
て、その人は、
「一生、いまいっぺん、あのような御祝儀、狐の御祝儀見たいもんだ」
 て、繰返し語っていっかったど。そんで、高畠の魚屋は魚は盗まれる、鯉屋は鯉上げられる、ぐるりはすばらしく被害あったど。むかしは狐の嫁入りに人を嵌(は)めるのが本祝儀だったど。
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