33 九十九文

 まいど、孝行な息子がいたったそうだ。息子の家も相当ええ家で、また相当な資産家の友だちがいたったと。そんで母親は病気してる。病気を看護さんなねため、息子も働きもできないし、段々貧乏して百文の借金ができたと。
 その借金をなして呉(け)なければ、医者は薬も寄越さねし、来て看(み)ても呉(け)んない。困りに困り、銭は集めらんねし、母親は苦しんでいて困ったと。そんで友だちさ行って、最初は田一反や畑一反は持っていんなだから、そればりの銭は貸してくれっかとねがったと。そしたば、こいつ、
「いやいや、友だちであるなんて言わっだって、銭だから、ない人さ貸して余計にとりたい俺なもんだから、銭だけはわかんね」
 なんて、
「いや、そう言わないで、まず今回(こんかい)きりだから、お願いだ」
「ほんじゃ、五十文貸すべ」
 五十文では百文にはなんねんだし、願って段々願って、十文かない、十文かない、また五文かない、して、九十九文まで借っだってだな。
「いま一文ばりなもの、あんだ貸して呉(け)たてええんねが」
 と言うげんども、
「いや、わかんね。今迄だってあんだにうんとしつこく言わっだから、一文足し二文足しして、こういう塩梅になったんで、とってもわかんね」
 と言うと。医者の方は百文でないとわかんない。先ずその家をシオシオとして出て来たと。そして来たところァ、丁度雪の降る日、ふつふつという女(おんな)奴(やっこ)の年寄に行き合ったと。孝行息子はコウコウという名前だったと。
「なえだ。お前コウコウさん。そんがえなシオシオという面(つら)して、こがえな寒いとき、どこか悪いのか」
 と言う。
「俺でない」
「ほんじゃ、なえだこと。そんがえシオシオして」
「いや、俺は恥かしくて言わんねくらいなもんだ」
「言ってみろ、何だかわかんね。俺なのかなうごんだら、なじょかしてやる」
 と言わったと。それで言うたと。
「まだ百文には一文足りないごんだ。なんぼ願っても貸さんねがった。一文の苦しみ、どうしたもんだか」
 そうしたらば、女奴は、
「今日もらった銭、調べてみっか」
 と、調べてみたらば、三文とかあった。
「そんだれば、前にはあんだから面倒になった、ソクッとこいつ、ありだけ上げっから、早く医者さ払って親孝行しなさい」
 と、奴に一文もらったと。そんで、その息子は、
「九十九文よりも、たった一文の方がありがたい」
 と、泣き泣き払ったと。とーびんと。
>>とーびんと 工藤六兵衛翁昔話(一) 目次へ