56 小豆長光

 長光という刀鍛冶がいたったと。長光がある殿様の寵愛な刀鍛冶であったと。あるとき刀自慢が始まったと。そんで、ええ刀をその殿様が持っていなかったので、恥かいてしまった。
「ほんじゃれば、殿様さ恩返しに俺は一生かかっても立派な刀ぶって殿様さやるべ」
 と、思って、三年間刀一本ぶちに掛ってぶったと。そんときは丁度冬至のときに出来上がったもんだから、二本さして、
「殿様は、冬至南瓜も好きだから、小豆南瓜、大好きだし」
 と、南瓜をハケゴさ入れて、小豆を風呂敷のボロさ入っで行ったと。
 そして行ったところが、その殿様は遊びに出ていて、長光は殿様より一足先に戸口まで行って殿様はその後行ったと。なんだか道の傍に落っでる小豆は皆二つずつに割っでいる。こがえなことにも二つに割っでる。なんでもかでも二つに割っでる。
「奇態なもんだ」
 と、下郎をつれて来たと。そしたれば長光は刀二本出来上ったから、来ていたと。
「こういう訳で、俺は御厄介かけたので、恩返しに三年かかって、ぶって来た刀だから、試しに何でも切ってみておくやい」
 と言うたと。
「そいつはええげんども、あんだ来た後、雪の上の足の跡の、丁度そばの小豆二つずつに割っでたのあっけ。奇態だと思って来た」
 そしたれば、小豆半分ばりはァ、風呂敷の穴からこぼっで、無いがったと。刀の鞘の上さポロポロ落っで行ったのが、皆二つずつ割れてしまった。
「ああ、そうか、そんでは刀の刃を上にして上から小豆こぼしてみろ」
 そうすっど、皆二つにぶった切れっかったと。
「ほんじゃれば、お前の刀、こうさして来たのに、風呂敷の穴からこぼっだんだ。ほんじゃれば、今日から『小豆長光』と、お前の苗字を呉(け)る」
 と言うたと。これくらい切れっかったと。
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