5 良寛和尚

 良寛和尚ざぁ、立派な和尚で欲のない和尚でやったと。そんで和尚はそこいら托鉢など歩って、晩方遅く来っとき、不作な年の秋など、稲がそっち盗まれ、こっち盗まれするもんだから、稲番がそっちにもこっちにもいたったと。そして夜おそく良寛和尚がぼっぼっと来たもんだから、こりゃ稲盗人だかと思って、十人ばりの稲番に頭はくらすけられ、肩は引張られして、さんざんな目に合ったと。そしていよいよ見たば、良寛和尚さまなもんだから、みんな、悪かったというもんで、うんとお詫びしたと。そしたら和尚さまは、
「アッハッハッハ」
 と笑って、
  打つ人も打たるる人も諸共に
     ただ一ときの夢のたわむれ
 と、さっぱり、ごしゃがねで行ったったと。
 それから余程して、次の年のこと、和尚さまどこさ夏の夜遊びに行ったと。和尚さま寝っだけど。
「なえだ和尚さま、蚊帳の外に、股たぶから下、皆出して寝っだのか」
「いやいや、ほだほだ。おら家の家中にいるものは、皆おら家の家内中だと思っている。竹だっても、家中さ出たのは家内中だと思ってっから、俺ぁ、板ば抜いて竹もおがしったし…」
 と言うたと。
「蚊だても家内中だから、こうして蚊さ食せっだんだ。片一方だけ食せっど、何だから、そっち食せてからこっち食せたりして食せんなだごて…」
   片足はごちそうにする 蚊帳の外
 と言うて笑ってたと。
 それから、秋の朝げ早く、遊びに行ったけと。そしたば、秋だに、蒲団もなければ、綿入れもなくて、ぷるぷるという恰好して、窓の際につくねんとしていたけと。
「なえだ和尚さま、蒲団も着ないで、こがえ寒いとき、綿入れも着ないで何しった、和尚さま」
「いやいや、昨夜(ゆんべ)、家には何もないじだげんど、盗人入ってよ、俺ぁ着った蒲団は、剥して行かれ、綿入れは持って行かれ、寒くて寝ていらんねから、起きていた。窓際さ来てみたところぁ、月は満々と照って、俺は盗人にとらっだということなど、さっぱりかまね。ない人だから盗って行ったんだべ。俺はこういう唄詠んだんだ」
   盗人に盗り残された窓の月
「この句はええがんべぁ」
 と言うたと。
「なるほど、和尚は心の広い人なごんだ」
 と、うんと感心したったと。とーびんと。

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