6 さんしょう売り ― 祭文語りの語ったもの ―

 村でも風変りな面白い人だったそうだ。この人はさんしょう売りに行ってたと。丁度、荒砥の盆祭りの時、さんしょう売りしったと。浴衣一枚着て、ふんどしもかけねで、さんしょうを山ほど並べていっかったと。そうすっど、見物人が来て、
「なえだ、大将。ずいぶん大きなさんしょうだな」
 と、こう言うたと。
「これは信州長野の山奥のドンドロ沼のふちでとって来た。朝倉さんしょうという名物だ。江戸は浅草雷門さ行って売ったときも、すばらしく売っだった。そんで荒砥さなど着て売んのは勿体ないくらいだ」
 みんなだは、さんしょうでなくて、褌もないので、みな見えるのをおかしがって言うのだげんど、本人はさんしょうの勘定で、一生懸命さんしょうの説明ばりしったと。そしてその内に見て来た人が、
「あの親父だら、面白い親父だ。今日はちいと小馬鹿にして呉(け)っかな」
 とて、遊びに行ったと。そしたば、夫婦で炉端にいたけぁ、
「やいやい、先度な、さんしょう売ったとき、すばらしく大きく見えた。そんで、お前があれを、ありだけの力出してならば、お湯一杯入った釜コ引っかけて、炉の周りめぐられんべな」
 と言うたと。
「いや、そっげなもの屁でもない」
 そして、三升釜コ引かけて囲炉裡のぐるりめぐってみせたと。して七分目頃までめぐったば、段々釜コが下って行く。そうすっどオカタも、親のことより子のごんだというたとえもあるとて、
「負けていらんねぞ、親父」
 と、ぐらりと尻からげて、丁度前を歩いたと。親父も元気ついて、ゆるゆるめぐったと。

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