10 尼様の化物

 丁度、向いの山に寺がいっぱいあって、道心坊という者がいだったと。その向いの寺には尼様もいっぱいいたったと。若い尼坊なもんだから、道心と仲良くなったのもいたったと。尼様の恰好してはうまくないもんだから、夜の丑の刻限になっど、丁度、額さ鏡を結(ゆ)つけて、手拭で縛って、御高祖頭巾を、ぶぁーとかぶって、うんと大きな剃刀を口さくわえて、寺の道心坊さ行き行きしたと。そいつさ行き会った人は、
「いや、恐っかない化物だ。ちいと見向きすっど、額から口からピカピカ光る化物だ」
 と、村中の話になったと。そんでまいどは、肝煎など欠代・長百姓などが寄って色々相談してみたと。
「そんな化物出ては、夜、用達しにも歩かんね。子どもらなどふるえて、夜、小便たれにも出はらんね」
 と相談して、村中の人で退治しなくてなんねと、こうなったと。そして村中で若衆が出て、弓ある人は弓、刀ある人は刀、槍ある人は槍もって、大勢で行ったと。そして向い山の、化物が毎晩歩くような所ねらって、周(ぐる)りから退治すんべと行ったと。そしたら、こげな音したと。
「ああ、極楽浄土さ行ったようだ」
 そうすっど、人々はこの二人をうんと馬鹿にして、
   おかしいてば、しいてばよ
   尼坊と道心坊
   卵に目鼻、墓場のかげで
   橦木なりにひっついた
 肝煎はごしゃえて、二人を向い山から追ってやったと。そし肝煎は、
「化物なんて、みんな怖(お)っかないと言うげんども、よくよく調べてみっど、こんげなもんだ。んだから、決して化物なんて世の中にいるもんでないし、怖れるもんでもないもんだ」
 と言うたと。どーびんと。

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