12 幽霊の子育て

 むかし、若いおっかがいたったと。そして若いおっかは難産でもしたかして、おぼこは生きたげんども、おっかは死んでしまったとはぁ。そして親父とおぼこばり残ったもんだし、夜中頃糯米など噛んで、おぼこさお粥など煮て食せっだと。
そして夜中頃になっど、おぼこはクヨクヨと泣くもんだし、シメシ(おむつ)などとりかえて呉っかったと。そいつだって乳のみたくてそうしているのだし、困ったどていたところぁ、何だか、足高草履の音、丁度墓場の方からチャカチャカといそがしく入って来(く)っかったと。
そして座敷口の戸撫でるような音したと。奇態なごんだと思っていたったと。そうしたらば、仏さまの磬(きん)がキーンとなったと。そして来て、おぼこを誰か抱き上げるような格好に思われっかったと。そしたらば、その幽霊の乳のんでドクドクと呑んで、おぼこがスヤスヤと眠むっかったと。
奇態なごんだなと思っていたれば、次の晩げにもまた、おぼこ抱いて寝ったどこぁ、また足高草履みたいなチャカチャカと履いて、座敷口の戸を撫でる。そしてお仏さまの磬(きん)をキーンと鳴らして、それからまたおぼこが泣く頃、乳呑ませて…、そのおぼこがお飯(まま)くって歩くまで、毎晩そうして来っかったと。
 んだから、おっかなんては、子どもをうんとむごさくているもんだけと。とーびんと。


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