15 越後の火井戸

 むかし、越後に権作じんつぁという者いだったと。そして前千刈、うしろ千刈田越して作ったと。そのうちに田の一とこは何(なえ)だかかえだか、なんぼ一生懸命に肥料(こやし)して手入れしたと。ろくな田になんねがったと。そして、奇態なごんだどて行ってみたと。いつ行ってみても、そこんどこは紫色みたいな水ぁしていたと。
「奇態だな。水というのは紫色ざぁないっだげんど、紫色なもんだから、んだから田悪かんべ」
 どて、思案してそこにいたと。昔なもんだから煙草出して火打金出して、福地蔵出して、火打石出して、チャキチャキと煙草喫(の)みしったと。そしたれば、煙草の火はバッバッとはねて行って、その田はどんどんと燃えっけど。「おかしいもんだ」どていたと。そしたれば、それが話になって、殿様もそいつを聞いだったと。そしたらば、
「それは火の井戸ちゅうもんだ。なんぼ消すべと思っても消さんねし、毎日燃え続けているもんだもの、お前はこいつを灯りにもされんべし、すっど、火の役人にして、一人扶持呉(け)て、田作りなどしないで、そこさ尻(けっつ)かけて、役人に…」
 と、役人になって暮したと。そしてあとのかえり、
「こいつぁ油出るところだから、こういうもんだ」
 と。そいつは今ではうんと油田になってはぁ、そいつから油とりしていんなだと。その人も二本差しを許さっで、一人扶持をもらってはぁ、そうしていだったと。初めのうちは力落しったげんど後ではうんと喜んだけと。どーびんと。

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