16 継子の水引

 兄弟いだったと。大きい方は先妻の子で、後の子は後妻かかの子だったと。そして後妻かかは、なじょにもかじょにも、先妻の子はめんごくなくて仕様なかったと。そして何時だかうんと日照りのときだったと。そしてその人も上の田と下の田と、その家には田があったと。上の田が水上から水入れんなだから、雑作なく入れられっけんど、下の田が中々遠くの堰をもって水を入れんのだから、掛かんねがったと。そして水引きしろと、水引きさせたと。そして一日(ひして)うち掛けたげんど、下の段さなど水は届がねくらいだったと。そして上の田ばり満々かかったと。そして次の朝に継母が来て、
「なえだまず、こげな水掛けして、にしゃだ、ほに…」
と、継子ばりうんと、ごしゃがっだと。そしていたところぁ、
「ほんじゃ、困ったもんだ。なじょしても水など俺どさ決して来ない。また明日もごしゃがれっか」
 なんて心配していだったと。そしたば、丁度自分の前さ来たのはモグラモチだったと。なえだ、モグラモチなど来たって、水は来ない。今度は豪儀な蛇は追かけて来て、モグラモチ一呑みになっどこだったと。すっど一呑みにさっでは、むごさいと思って、思い切って蛇を引っぱたいて殺してしまったと。そしたらば、モグラモチは、
「お前、何か心配ありそうにして、つくねんとしているもんだ。何心配あっか、俺さ語って教えろ」
 と、こう言うたと。
「いやいや、俺はこういう訳で水引きさせらっじゃげんど、こげなどさでは、俺はなじょにも掛けんべくもない。掛けないじと、継かかにごしゃがれるし、何んとも仕様ないなだ」
 と、いだったと。そしたばモグラモチは、
「俺はお前に生命を助けてもらったんだから、俺の続く限りは、あんだの水を掛けて呉(け)る」
 と、こういうた。
「明日の朝げ、継かかとあんだだ来て見るまでには、上の田ぺろっと干って、下の田は満々とかけて見せる」
 と、こう言わっだと。そう言わっだもんだから、嘘だか本当だけ分んねげんども、喜んでいたと。そうしたところが、モグラモチ仲間いっぱいつれて、上の田の土手、そっちも孔あけ、こっちも孔あけして、ぺろっと孔あけてしまって、そして上の田の水は皆むぐって、下の田さ入ったと。こいつを見た継母は、
「こいつは困った。こげなごんでは、にしゃもあれなんだな」
 なんて、後では先妻の息子も、大変誉めらっじゃど。また自分の子どもの方はおんつぁっだ(怒られた)と。なんぼモグラモチでも助けらっだ恩は返すもんだから、めんごがらんなねと。どーびんと。

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