19 旅人と毒蛇

 まいど、一人の旅人いだったと。その人は秋遅い頃、朝げに霜降って、じゃきじゃきというがったと。蛇だっても寒くなっど、がおって、しまうもんだほでに、その毒蛇もよくよくがおって、今にも死ぬようになったけと。そうすっど、旅人は、
「何しった?」
 と言うたば、「寒くて寒くて、死にそうだ」と言うたと。あんまりめんごいようなもんだから、そいつを取上げて、自分の懐さ入っで温めて呉(け)たけと。そうしたば、毒蛇も段々生気が出来てきたと。その内に、懐の内が人くさい匂いするもんだから、毒蛇だし、かまわず人などばり食って生きているもんだし、パカッと食ってしまったけと。そうすっど、旅人も食ったもんだから、旅人はそこさ倒っでしまったと。そしたば、
「なえだ、俺はお前が死んでしまいそうだったから、むごさくて懐さ入っで温めて呉(け)だ。あんだ俺どさ恩返しどころか、俺どこ食ってしまったんねが?」
 と言うたと。そしたば蛇は、
「俺は、こいつが商売だもの…」
 と言うたと。んだから人を助けっ時だって、人を見て助けんなねけど。どーびんと。

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