20 能登の和尚

 まいどの話だげんど、能登の永平寺という本山の和尚さまの話。
 この和尚は第二代目の和尚さんで、若いうちは強盗しったと。そんげな商売して、金など持ってるもんだから、そのうちに妾みたいなオカタみたいな女見つかったと。そして女なんというものは慾にはきりがないもんだったと。オカタはこう言ったと。
「俺はこげな商売の人のオカタになっていっじだげんど、こりゃ人並な衣裳着たことないもんだ。つまんねもんだ。なじょかしてええ衣裳着った人のを追剥して、俺さ呉(け)ねが」
 そうすっど、そいつを聞かねではなんねべどて山の峠さ行ったところぁ、すばらしい装束しった、頭さは金銀の笄・櫛などしった女いだったと。よしと、こいつを皆追剥かけて、俺のオカタを喜ばせんべと思って、その女を峠でぶち殺して、衣裳ありだけ追剥かけて、頭の櫛・笄もぺろっと盗って、そして家さもって帰ったと。
「いや、今日は望みのもの盗って来た」
 そうすっどオカタも喜んで、衣裳を着てみたり櫛だ笄だとさして、「ええことなぁ」と言うたと。
 こんど、その次に、
「こがえに立派な櫛などさしているごんだれば、髪だって手入れしていんべがら、なんぼか長いええ髪だったべ」
「髪もあっけな」
「いや、今、髪なんというものは、売りものにすばらしい高いもんだそうだ。なして髪剃って来ねがったもんだ」
「まさか、死人の髪まで盗って来らんねがった」
「いや、そんげなことして、ぐずぐずしていると、誰かにそのええ髪を盗って行かれっど悪いもの、早く今夜のうち行って、髪をとって来い」
 と言わっだ。そして嫌(や)んだと思ったげんど、オカタにそう言われんだし、無理無理家出はって、その髪を盗んべと思ったと。そん時考えたのは、こうだったと。
「お釈迦さまはこう言うた。『やさしいも女、恐ろしいも女』。なるほど俺もあの女をオカタにするあたりは、本当にやさしくてええと思っていたげんど、こんな商売して、人をぶち殺して来たの髪まで切って来い、なんて言う。本当に恐ろしい女だ。女さえ捨てたらば、そんな罪なことしてっことない」
 家は出はったげんども、丁度その時、第一番の和尚さんどさ行って、そのこと一切話して、
「俺はこれから立派な和尚になって、殺した女をお供養したいから、弟子にしておくやい」
 と言うたと。
「そういうごんだれば、悪いことしたとしても、これからさえも立派なことすれば、お前だっても立派に極楽さ行かれんなだから、ええがんべ」
 と、弟子になった。そん時、能登の永平寺の和尚さんもしながら、丁度十五里離っだ所に、永光寺という寺があって、その寺の和尚が死んで空寺だったと。そんでその寺さ行く人いないもんで、
「俺もあれくらいな悪いことしたもんだ。他人がされないというくらいだから、俺ぁしんべ」
 と、毎日、朝永平寺の務めもしてから、丁度隼という鳥が行くように、山でも川でも飛んで行くように、十五里ずつ往復して、死ぬまで務めて、後では永平寺の二代目の和尚さまになったけと。んだから、若い時に様々なことあっても、後でええことすれば立派な人にはなられるもんだけと。とーびんと。
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