24 子の代(しろ)

 まいど、「子の代」という魚いだったこと、若衆も知ったべぁ。あの「子の代」というのは、なしてそう名付けたかと言うと。
 まいど、越後に殿様いだったと。そしてある金持の家にええ娘がいだったと。そして殿様はお嫁にしたくって、うんとすすめたと。ところが、なんぼすすめらっでも、親達は、
「殿様のお嫁さんだもの…」
 と喜んでいだげんども、娘には別の男がいたったと。して、娘は、
「こういう訳で、こういう訳だ。俺などはとにかく死んだってお嫁には殿さまさ行かんね」
 と、こう言うたと。そしたばその家の若い者は、
「ほんじゃば仕方ない。あんだだって生(い)き身(み)なんだから。俺は様々な魚見てる。浜の生れだから。子の代という魚、生(なま)ら乾(ほ)しにして、そいつを一杯火にくべっど、その匂いは丁度死人を焼く匂いと同じだ。ほんじゃ仕方ない、おらえの娘死んで火葬にして、殿様に、そう言ったらええべ」
 と、子の代という魚をいっぱい、生ら乾しにして、その上さ薪いっぱい積んで、どんどん火を付けて、殿様さわざわざ使いに行ったったと。
「この通り娘は死んでしまったんだし、今火葬にしったとこだ。どうか見ておくやい」
 と言うたと。殿さまは匂いを嗅いでみて、
「やっぱり人の匂いだな。本当のごんだな」
 と、行ってしまったと。それから〝子の代″と名付けたんだと。どーびんと。
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