35 猿橋右門

 まいど、米沢の上杉様の家来に猿橋右門という中々賢こい男で、丁度今だれば間者などという、そういう役目も侍だったと。そんで右門のオカタに、色っぽい女がいだったと。そしてその下郎に常兵ヱというのがいだったと。そして常兵ヱと仲よくなったので、お城あたりでの話になったと。
「いや、こんな話、俺ぁさっだでは、面目ない。こんな下郎にオカタ取らっだなんて、世間さ言わっでいらんね」
 と、そん時、右門が江戸さ参勤交代に行かんなねがったと。んだがら考えたと。参勤交代に行くには、常兵ヱをどうしてもつれて行かなくてはなんね。と、そしてつれて行ったと。そして様々なことして、常兵ヱさ言うたと。
「有馬温泉さ遊びに行ってみねか」
「ありがとうございます」
 そうすっど、右門がこう言うたと。
「お前は、世間の話にはこういうことある。お前も恥だし、俺も恥だ。まず不忠義ともなるんだから、そう他人(ひと)に言んねえようにするには、あんだの男根(すじこ)切ってしまう他ない」
 と、こう言うた。殿様に言わっだもんだから、嫌(やん)だとも言わんねくて、
「あまええございます」
 そして、有馬温泉さ行って、根っこからスパッと切って呉(け)たと。そして有馬温泉で傷を治して、
「有馬温泉では裸踊りと言うのは、うんと流行(はやっ)どこだそうだ。そんで、にしゃも習って踊れ」
 そして裸踊りを習ったと。そして、参勤交代が終えて来たもんだから、これはすばらしい下向振舞だったと。右門の家では大祝いをしたと。そん時、常兵ヱは命じらっで、
「お前は有馬温泉さつれて行ったとき、踊りを習って来た筈だ。そんでみんなさ、お土産に御披露したらええんねが」
 そうすっど、殿様に言わっだもんだから、嫌だとも言わんねし、まず真裸になって、褌もとって裸踊りを踊ったと。そしてみんな、
「なえだ、噂には様々なことあったずだ。あんがえにスッパリ無いもの、そんなことある訳がない」
 と、話が出たったと。
「ほだなぁ、あがえにスッパリないもの、あれは本当に話だけだったなが」
 そんで下郎も元からの片輪者みたいになって、猿橋右門もオカタ取らったでもなく、そしてうまくなったと。やっぱし、賢こいものは中々考えるもんだっけと。とーびんと。

>>とーびんと 工藤六兵衛翁の昔話(四) 目次へ