36 いそがしく空騒ぎ

 二人の兄弟がいだったと。兄は何んでもかんでも騒いで、盆と正月が一度に来たようなもんだったと。そして仕事ざぁ、粗放なことばかりして仕様ないがったと。
「粗忽結構、早い調法」なんて、口癖に語って、何するにも…。そいつの舎弟には、まず、極く地味な落度のない舎弟がいだったと。そんで舎弟、
「兄貴は二度田の草採ってもええどこ四へんも五へんもとっても、こんで採ったざぁない」
 なんて言うがったと。
「馬鹿ばりつかす、にしゃ、一ぺん採る内に二度もとるもの、俺ぁええかんべちゃ」
 とにかく、いそがしく空騒ぎばりしていっかったと。そして春のごんたもんだし、親父は、
「にしゃだ二人行って、奥山でまず柴切って来い」
 兄は、せわしい野郎なもんだから、朝げ起きっど、早くお飯食って、荷縄も持(たが)がねげれば、弁当も山刀も持たねで、わらわら山さ行ってしまったと。舎弟はゆったりしていっけんど、
「今日、山さ行ったらば、山刀で柴を切って…」
 なんて言って、まず山刀をさわってみて、それから、
「昼間のときは、弁当など食って…」
 と弁当を見たり、それから、
「帰りには、結い荷を背負って来んなねから…」
 なんて、荷縄をあらためて、行ぐがったと。
 そして山さ行って、木を切る段になったら、兄は、「あっと、山刀忘(わ)せた」と、柴切りに行く人は山刀忘っだんだと。「いや、持って来んなね」と、今度は遠い山からかけ足で家さ来て、山刀もって行ったと。そしてかなり遠いもんだから、行って、「昼間だごではぁ」なんて、お飯食うべと思ったら、昼間の弁当忘っで行ったずま。「ほんじゃ困った」と、家さ弁当とりに来たと。そして来て、弁当もって山さ行った。そうすっど、今度は晩方になったったごではぁ。舎弟は昼間の弁当も食って、柴も切って、背負って来んのも、ちゃんと背負ってはぁ、荷縄さ。兄は弁当をそこで食ったげんども、柴はさっぱり切んねし、ようよう背負って来んべと思ったげんど荷縄も持って行かねもんだから、素空身で来たったと。そして晩方来たところが、親父に、
「なえだ、にしゃ、弁当とり、山刀とりに二度も入山から来てったじだ。来っどき、柴一本も背負って来ねのか」
「ほだ、俺、荷縄忘っで行ったもんだから」
「にしゃ、随分騒ぐようだげんど、にしゃを『いそがしく空騒ぎ』というもんだし、舎弟の方は、『地味に無駄なし』というもんで、やっぱし、地味に無駄なしに敵わねもんだな」
 そして兄は大変親に教えらっじゃけど。どーびんと。

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