49 歌い初め

 まえど、隣近所で、正月二日に歌い初めがあったと。自分から歌って次の人さ送るのだったと。組頭は先に、
  春の初めに空ツブなど貰った
    田から集めて来たわいな
 今度は和尚さまだごてはぁとて、
   和尚さまでもしたい味ぁ同じだよ
    切れたタタミの表替え
 次は隣の後家ダダだごてはぁ、「はい」と、
  二階なら貸して上げます望みとあれば
    下も貸します後家ぐらし
 今度隣の姉ちゃだごで、「はい」と言うて、
  したい頃だよさせたい頃だ
    ちんと毛の生えた羅紗の帯
 隣の兄んちゃだごで、「はぁ、ほんじゃ」
  煙草のみのみ考えて見れば
    親父ぁおれより年多(うか)い
 その隣の土方兄んにゃだごで、「はい」と来た。
  お捨女(しゃめ)買うのは惜しくもないが
    念仏施銭ばかくさい
 今度は質屋のオッカの番だ。「はい、ほんじゃ俺がっし」
  わたし穴こにシチヤがござる
    入れたり出したり流したり
 その隣のじじさだ。「おら、年寄って分んねげんど、聞いてばりいらんないごでなあ」
  高砂のじさまとばさまの舟のり遊び
    夜っぴいてかかってただ一度
 こんど、その脇の染屋だごで、「はい」
  親父と嫁こはまたいろばなし
    親の代から染めやさん
「誰も吝気などしねごでなぁ、あはは…」。その次は隣の若いのだ。「はぁい。笑止しいげんど」
  坊やは寝むたよまたはじめましょ
    そっとあてがう剃刀を
 こんで一廻りした。また正月の十六日でもしんべ。めでたいめでたいごてなぁ。

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