6 白髭明神の神霊

 この神霊のことは前にも書いたが、奥羽線敷設当時の老人の二・三の話。
 鉄道線路敷設時は大勢の土方が入り込んで、社に入り板をはがして、神棚を荒し、堂は土方の集合所であった。こうして神威は彼らのなすがまま、こうした末数人の土方はこの社に泊っていたが、ある真夜中のこと神前のあたりでがらがらと異様な音。一同おそろしさにふるえながら、音のする方を見れば白顔の神霊金光まばゆくこなたを見る。一同そのまますくんで音を立てることもできない。怖ろしさに一夜を明かし、明けると早々に逃げて行ったという。
 その後のこと、土方が泊ったが、土方のこととて、また堂を荒し神霊をけがした。ある夜のこと、ごうごうと音をたてて来た。汽車、はてまだ開通したわけでもないのにと不思議と思ううち、また左の方から汽車のひびき、と思う間に堂前で衝突した。そのひびきに堂は、一時崩れ落ちたかと思うばかり、さすがに土方も生きた心地なく一晩寝もせず夜が明けるのを待って、どこへか逃げ去ったという。
 またこれも当時の話、一人の土方が南の沼に至り、鍋洗いをしていた。この沼は昔から白髭明神のお使いものが主となって住んでいるといわれたところである。当時は飲料水として鍋洗いから雑物洗いで不浄化した。今しも土方が鍋を洗っていると三間ほど前に波立ってぼくんと浮いたものがある。あまりの不思議さに棒もて突いて見ると、箕のような大亀、この土方も腰を抜かさんばかりにおどろいて、その日のうちにどこかへ逃げた。
 堂に寝泊りしていた土方夫婦があった。その土方の妻、ある日のこと沼へ行って水仕事をしておったら、前方の草むらがただならぬなびきよう、不思議と思って見ると、その長さ八尺もあろうという一匹の白蛇がこっちをさしてやってくる。怖ろしさのあまり倒れんとしたが、ようやく逃げて来たという。それ以来沼へは行かないという。鍛冶屋某が堂内に泊り、大蛇を見てその神霊をおそれ、ローソク台を寄進したこともある。
(露藤)
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