10 鎮守さまで不思議を見る

 今から七十年前のこと、中島の小左ヱ門さん、念願するところあって、老杉うっそう、昼なお暗い室にお籠りすることにした。夜は鎮守さまはしんとして淋しいこと限りない。夜はしんしんと更けて行く、灯明の火も段々細くなってくる。丁度真夜中とおもわれる頃、神殿のあたり、どんと音がしたかと思うと、身の丈六尺もあらんかと思わるる装束をつけた神さまらしき方が顕われた。小左ヱ門さんは総身から冷汗を流しておったが、にわかに怖ろしくなり、帰り仕度をして、あの長い百二十間の台門も夢のように走り、中島へ帰ったという。
(露藤)
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