103 清吉の火磔

 百二・三十年前のこと、小林平左ヱ門方に最上生れの清吉という者が来て働いておった。清吉は上舘の安部三左ヱ門の娘おうゑと、わりない仲になった。このおうゑは非常に虚飾な女であった。かんざしが欲しくなって清吉にねだったのであった。清吉とて人の家に働く身、かんざしなどあろう筈がない。思案の末、安部又兵衛さんに放火して、火事場泥棒を働いたのであった。目明しは放火と聞き厳重に清吉をしらべたが、盗んだ衣類を米沢の土橋の丸谷家に売却して金のかんざしを買い求めおうゑにやり、その喜ぶのを見てよろこんだという。
 露藤の某、米沢で安部又兵衛さんの定紋入りの夜衣のあるのを見て、それを安部又兵衛さんに知らせ、清吉のことが知れて捕えられることとなった。丁度その時、二番除草で田に入っていた清吉に目明しがすぐ縄をかけようとするのを、気丈な平左ヱ門さんの老婆が「不浄の縄を宅の田でかけてもらいたくない」といって、捕手もそれを認めて道に上ってから縄をかけたという。
 吟味の末、ついに清吉は自白し、裸の馬にのせられて露藤中を引廻され、そのとき三左ヱ門のおうゑは門口に出て清吉の姿を見た。すると清吉は恐ろしい目をして、女奴、お前の家に七代祟ってやると捨てゼリフを残して松原に引かれて行った。松原では火磔を見んものと、雲集した人々はお祭りのような雑踏ぶりであった。柱を立て、清吉をしばり、その上へ萱をかぶせて火をかけた。人々は顔をそむけた。そのとき、おうゑも豆絞りの手拭いをかぶって見に行ったという。その後安部家も絶えた。
(露藤)
>>つゆふじの伝説 目次へ