109 佐兵次さんのこと

 佐兵次さんは機織りを教えたということは有名な話。当時の露藤の女子衆は佐兵次さんに教えられたといわれる。また泉岡村の七郎右ヱ門さんの内儀さんも佐兵次さんに機織りを教えられたという。当時尾長島で阿妙陀寺で尼さんが殺された。朝になってこれを見つけ大騒ぎとなった。役人出張して調べたところ、現場に天保銭六七枚散らばっていた。また寺の前の小川に火箱が入っておった。それへ露藤村佐兵と記してあった。嫌疑がすぐ佐兵へかかってすぐに捕った。しかし佐兵次は連日日記をつけておいた。その日記によると、その晩は寺へ泊らなかった。名主の名左ヱ門さんが奉行所へ出頭して佐兵次は人を殺すような者でないと証明したので許されて帰った。
 佐兵次は露藤の某と賭をした。白昼米沢の藩の役人の頭を打たれるかと、佐兵次は笑いながら、巳なら何の造作もないと相手の某もおどろいた。その結果佐兵次は役人の頭を打つこと、もし打ったら金百疋と酒十盃買うこと、もし負けたら某の言うことは何でも聞くことという約束であった。そして今日二人同道して佐兵次さんは打つ、某人は見届け役であった。某もまさか役人の頭は打たれまい、今日こそ佐兵次の高慢の鼻をへし折ってやろうと、米沢の城下にやって来た。折から通りかかった役人二人、店へ買物に入った。そこへづかづかやって来た佐兵次さん、一人の役人の頭をいきなり拳で一つ相手の男はおどろいて、どうなることやら息をのんでみておった。すると佐兵次、道へやってきて馬糞をつかんで食おうとしたところ、最善の武士は、何者かと怒ったが、見れば一人の男、今馬糞を食っている。てっきり狂人と思ったのであった。馬鹿かと笑いながら去った。某も今更ながらおどろいたのであった。こんなとんちをして、相手をおどろかしたのであった。
(露藤)
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