35 砂川水江の怪物

 露藤下舘次郎左ヱ門さんの娘は和田に嫁していたが、姑さんと仲が悪く、夜中頃であったが、露藤の実家へと逃げて来た。砂川にそって淋しいところを通らねばならなかったが、恐ろしさをこらえて今しも水江の堀の辺にさしかかったら、にわかに砂川の対岸の中堤はパッと明るくなった。これは不思議と思ってよく見れば、明るいのは焼火、その焼火にあたっている男は、身の丈七尺ぐらいもあろうか、その顔の赤いこと今しも通った女の顔をにらむそのすごいこと、身の毛もよだつばかり。戻るにも戻れず、進退あまって「おっかない」と一声走り出した。そしてふり返って見れば、その男がうしろから追って来る。「おい、女待て」。あまりの恐ろしさに前後もわすれ一足飛びにとわが家へ来た。身ぶるいで歯も合わない。床にもぐり込んでみたが寝付かれず。翌日これがもとで病気になり、死んだという。一説に山男ともいい、また「かおす(かわうそ)の化物」ともいう。今から五十年ぐらい前のことであるという。
(露藤)
>>つゆふじの伝説 目次へ