61 恐ろしかった思い出

 まだ三十代の頃、親しかった友の妻は産後の日立はわるく、加えてお医者さんが東京へ行ったとの時にて、留守であった。病勢いよいよ加えて危篤の状態となった。死はどうすることも出来ない。死去の通知でいそいで行ったときには夜の十二時頃であった。生れて間もない子を残してあの世の人となったという。余はただ一人自転車にのって帰ろうとしたところ、どうしたことか、自転車のうしろに人がいる。振り向くと誰もいないのに、人がいる気配である。不思議に思って自転車から降りてしばらく休んだ。それからそれらしい人は居らなかった。それから数町の我が家に歩行して帰った。今もって解けぬなぞとされている。
(露藤)
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