67 おさん狐

 露藤村におさんという若い女がおった。小柄なやさしい女であった。某はある時のこと、下浅川へ用事があって小道を歩いて、今しも田んぼから萱野へ差かかったとき、丁度萱野の手前に草刈場があって、そこへ枝の繁茂した胡桃の木があった。そこへ差かかると、その根元に一匹の狐が昼眠をしていた。人の気配がすると二三回転ぶと見る間に若い娘に化けてしまった。あまりの不思議さにどこへ行くのだろうと見ていたら、部落をさして行く。少しはなれて追って行った。そして部落のおさんによく似ていた。スタスタと歩むおさん狐はやがておさんの家へと入って、あとはわからない。ときどきおさんに化けるので、人々呼んで「おさん狐」といった。人をばかにすることはなかった。
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