75 死人に会う

 入生田の高橋伊藤亀吉さんの妻は早く死んでしまった。死去したのは初秋のこと其の内に冬は訪れた。ある冬の日のこと、付近の某が小用あって、橋本へやって来たが、帰りは夜の十時頃であった。今しも雪道をとぼとぼやってきて、角巻姿の一人の年増女に会った。それは亀吉さんの妻そっくり、やがてすれすれに来たので言葉を交わそうと思ったが、考えてみれば死んだ筈、もはやこの世にいないと思うと、急に怖ろしくなった。けれどもその女の行き先を見ようと振返ると、今すれちがったばかりの女の姿はなくなっていた。雪道の一本道、傍道もないはずだが、と身ぶるいするほど恐くなり、家に辿りついたときには、物をいうことも出来ないほどだった。
(露藤)
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