76 枕元の水を飲んできた

 六七十年前の話、入生田の又左ヱ門さんはまだ中年の頃であった。同家の親類高安(高畠町高安)の某家のことであった。又左ヱ門さんの父は病気となって危篤を報ぜられて、親類の高安での話。その家の老人は早く床に入ったが、のどは乾いてならぬ、妻をよんで枕元へ水を運ばせた。大きな茶碗とて、呑んで枕元へと置いた。少し時をおいて呑もうとしたら水は一滴もない。どうしたことかと思っていたら、「早速の突然の知らせ」が来た。入生田から又左ヱ門さんの危篤が報ぜられたので同道した。こうして入生田に来たら家人は心配気に病人の枕元についている。今しも枕元にやって来た某。すると病人は夢となく現となく語るのであった。「ああ、今、高安に行って来たほどに、くたびれた。けれど某の枕元の水はうまかったこと」。そしてまた夢路に入るのであった。これを聞いたとき、総身から水をかけられたような感じであった。又左ヱ門さんの親はなくなったが、後から人々に語ったが、いずれも不思議なことと言い合った。
(露藤)
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